■はじめに

 プロトコル(protocol)とは,「通信規約」という意味です。ネットワークに接続された複数のコンピュータの間で同じプロトコルを使えば,コンピュータの機種やアプリケーションの種類が異なっていても,データを受け渡すことができます。ここでは,プロトコルの種類と役割を説明しましょう。

■プロトコルとは?

図1●プロトコルが同じなら異なる機種でも通信できる
 プロトコルのことを分かりやすく説明すれば,「通信をするときの手順を取り決めた約束事」ということになります。例えば,電話には電話のプロトコルがあります。同じプロトコルを使っていれば,異なるメーカーや異なる機種の電話であっても通話が可能になります。それに対して,電話とトランシーバー(無線機)で通話ができないのは,プロトコルが異なるからです。このように,プロトコルには,目的に応じて様々な種類があります(図1[拡大表示])。

表1●主なプロトコルの種類と特徴
 LANで使われる主なプロトコルの種類には,TCP/IP(ティー・シー・ピー/アイ・ピー),NetBEUI(ネット・ビューイ),IPX/SPX(アイ・ピー・エックス/エス・ピー・エックス),及びAppleTalk(アップル・トーク)などがあります。この中でも,TCP/IPは,インターネットで利用されている標準のプロトコルであることから,現在の主流となっています。主なプロトコルの種類と特徴を表1[拡大表示]にまとめておきます。Windows,UNIX,及びMac OSのいずれの機種であっても,TCP/IPというプロトコルを使えば相互に接続できることが分かるでしょう。

■OSI参照モデル

 「あらゆるハードウエアとソフトウエアを相互に接続する」これが,ネットワークの理想と言えるでしょう。この理想を現実のものとするために,ISO(国際標準化機構)が1977年にOSIという標準仕様を策定しました。OSI(Open System Interconnection=開放型システム間相互接続:オー・エス・アイ)では,ネットワークで使用されるハードウエアとソフトウエアの構成を7つの階層に分けた「OSI参照モデル」を定めています。

表2●OSI参照モデルはネットワークの規範である
 OSI参照モデルは,ネットワークの機能を整理して考えるときの規範(モデル)となるものです。データを送信する場合は,第7層~第1層に向かってデータが流れ,ネットワーク・ケーブルまで到達します。データを受信する場合は,ネットワーク・ケーブルから,第1層~第7層に向かってデータが流れ,ユーザーの手元に届きます(表2[拡大表示])。

 OSI参照モデルは,上位層から見て下位層をブラックボックス化することを目的としたものです。これは,コンピュータのハードウエアがOSによってブラックボックス化され,アプリケーションから見えなくなることに似ています。例えば,AT互換機というハードウエア上でWindowsというOSが動作し,さらにWindows上でMicrosoft Officeというアプリケーションが動作するのと同じことです。

図2●OSI参照モデルとTCP/IPの対応関係
 ただし,OSI参照モデルの各層が1つのハードウエアや1つのソフトウエアに対応するとは限らないので,注意してください。例えば,イーサネット・カードというハードウエアでTCP/IPというプロトコルを使ってデータを伝送する場合には,OSIの各層が図2[拡大表示]のようになります(説明を簡単にするため,かなりの部分を省略しています)。イーサネットは,物理層とデータリンク層の機能を兼ね備えています。後で説明するSMTP,FTP,及びTELNETは,セッション層~アプリケーション層の機能を兼ね備えています。

■TCP/IP

 TCP/IPの前にOSI参照モデルを説明したのは,TCP/IPという用語が,トランスポート層のTCPと,ネットワーク層のIPをセットにしたプロトコルであることを理解していただきたかったからです。ほとんどの場合で,TCPとIPが一緒に使われるので,それをTCP/IPと呼ぶのです。

 トランスポート層の機能を提供するTCP(Transmission Control Protocol:テイ・シー・ピー)は,ネットワーク・ケーブルから送信されるデータの伝送単位である「パケット」の分割や組み立てをします。サイズの大きなデータをまとめて伝送すると,ネットワークの停滞を招く恐れがあります。そこで,TCP/IPではデータをパケットと呼ばれる小さな単位に分割し,バラバラに送信するという手法を採用しているのです。パケットを受け取った場合は,それらを組み立てて元のデータに復元します。もちろん,復元のための情報が,個々のパケットの中に埋め込まれています。

図3●TCPの機能とICの機能
 ネットワーク層の機能を提供するIP(Internet Protocol:アイ・ピー)は,IPアドレスでデータ伝送先を決定します。IPアドレスは,LAN単位に割り当てられている場合と,個々のコンピュータに割り当てられている場合があります。TCPでパケットに分割されたデータに,IPで送り先のIPアドレスが付加され,それがイーサネットでネットワーク・ケーブルに送信されるのです(図3[拡大表示])。

■TCP/IPを使った上位のプロトコル

 図2で示したSMTP,FTP,及びTELNETもプロトコルの一種です。これらは,TCP/IPという下位プロトコルを利用した上位プロトコルだと言えます。「1つのネットワークでデータを送るのに,複数のプロトコルを使えるのはなぜだろう?」などとは思わないでください。プロトコルは,あくまで約束事です。OSI参照モデルの各層に様々なプロトコル(約束事)があるのです。

図4●Microsoft Outlookの設定画面
(1)SMTP

 SMTP(Simple Mail Tranfer Protocol:エス・エム・ティー・ピー)は,メールを送信するためのプロトコルです。送信されたメールは,送信先のメール・サーバーの中に保存されます。メール・サーバーから自分宛てのメールを取り出すためには,POP3(Post Office Protocol 3:ポップ・スリー)などのプロトコルが使われます。図4[拡大表示]は,メール送受信アプリケーションであるMicrosoft Outlookの設定画面です。メールを送信するためのプロトコルがSMTPであり,メールを受信するためのプロトコルがPOP3となっているのが分かるでしょう。

(2)FTP

 FTP(File Transfer Protocol:エフ・ティー・ピー)は,ファイルを転送するためのプロトコルです。FTPを使えば,ネットワークに接続された異なる機種のパソコン間でファイルのやりとりができます。Windowsにはftp.exeというコマンドライン・ツールが添付されています。このツールを使えば,他のコンピュータとの間でFTPを使ったファイルの授受が行えます。Internet Explolerを使えば,FTPでファイルをダウンロードすることも可能となっています。

図5●TELNETでWindowsからUNIXマシンにログインする
(3)TELNET

 TELNET(テルネット)は,他のコンピュータにログインして,コマンドを実行できるようにするプロトコルです。図5[拡大表示]は,Windowsに添付されたtelnet.exeというアプリケーションを使って,他のUNIXマシンにログインし,ファイルの一覧を表示させているところです。

■おわりに

 今回は,TCP/IPを中心にプロトコルの説明をしました。ただし,OSI参照モデルの中には,「データの誤り検出/訂正」や「同期/非同期」など,意味不明な用語がいくつかあったことでしょう。これらの用語に関しては,次回の講座で説明することにします。