本年1月末に来日したアラン・ケイ氏は,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムに出席し,スピーチやディスカッションをした。その中でケイ氏は,「本当のコンピュータ革命はまだ起こっていない。我々はコンピュータの持っている可能性を十分に生かしていない」と語った。
 フォーラムで語られた話題は,ITの将来展望,同氏が在籍したゼロックスのパロアルト研究所(PARC)が数々の発明を生んだ理由,子供とコンピュータ教育,同氏らが開発した「Squeak」というオープンソース・プラットフォーム,日本のIT産業への期待などなど,多岐にわたる。IT Proでは数回に分けて,アラン・ケイ氏の発言を紹介する。

 以下は,1月27日,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムにおけるアラン・ケイ氏の発言内容である。藤枝社長や来場者から出された質問に,ケイ氏が答えた。
今回のやり取りは本フォーラムでもっとも火花が散ったところである。よって一問一答方式で再現する。

アラン・ケイ氏と藤枝純教氏藤枝:Smalltalkが狙ったオブジェクト指向の実現という意味では,Javaがその役割を果たしているのではないか。

ケイ:いや,まったく違う。Javaについては,いろいろな見方があるが,本来はアプライアンス製品用の小さなプログラムで,インターネット用にデザインされたものではない。だからいろいろと問題がある。サン・マイクロシステムズはPARC出身者を採用しているが。

藤枝:マイクロソフトの.NETはどう思うか。

ケイ:.NETのほうが,Javaよりはいい。

藤枝:本当に?。

ケイ:本当にそう思う。.NETは優れたアプローチ方法だ。マイクロソフトは今のままのシステムを今後20年間持続することはできない。そこで,だれか利口な人がいてもっと安定したプラットフォームを作ろうと言った。安定したプラットフォームを求めた結果生まれた.NETは,よく見るとSmalltalkに似ている。Javaよりレベルが高い。よくコントロールされたプラットフォームだ。ExcelやWordをその上で動かそうというのは優れた戦略だ。

藤枝:うまくいくだろうか。

ケイ:何千人もエンジニアがいるから,やり抜くだろう。

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 以上のやり取りはフォーラムの一番最後で行われた。時間の関係で藤枝社長はここでやり取りを打ちきったが,後ほどこう述べている。

 アラン・ケイ氏は,Javaに対しては偏見か正論か分からないが最初から厳しい姿勢を持っている。まず,Javaのアーキテクチャが十分ではないとバッサリである。私は,サンがJavaに関するさまざまなテストをもっと公的でオープンな場所でやるようにすれば,もっと評判がよくなると思っている。

 しかし,.NETの方がいいとは正直びっくりした。私はJava党である。Javaのほうが,セキュリテイも強いし,インターネットをベースにしたインターオペラビリティもフレキシビリテイもあると思う。

 ただし,Deterministicなモデルの追加と,その パフォーマンス向上のために,コンパイラの充実が欠かせないと考える。