本年1月末に来日したアラン・ケイ氏は,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムに出席し,スピーチやディスカッションをした。その中でケイ氏は,「本当のコンピュータ革命はまだ起こっていない。我々はコンピュータの持っている可能性を十分に生かしていない」と語った。

 アラン・ケイ氏は,ゼロックスのパロアルト研究所(PARC)の創設者の一人であり,パーソナル・コンピュータの概念を提唱した人物として知られる。また,グラフィカル・ユーザー・インタフェースやオブジェクト指向プログラミングなどの分野でも多くの業績を残した。

 フォーラムで語られた話題は,ITの将来展望,同氏が在籍したゼロックスのパロアルト研究所(PARC)が数々の発明を生んだ理由,子供とコンピュータ教育,同氏らが開発した「Squeak」というオープンソース・プラットフォーム,日本のIT産業への期待などなど,多岐にわたる。IT Proでは数回に分けて,アラン・ケイ氏の発言を紹介する。

 以下は,1月27日,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムにおけるアラン・ケイ氏の発言内容である。今回は,ケイ氏が手がけているオープンソースのプロジェクト「Squeak」について,ケイ氏が説明した内容を紹介する。フォーラムには,Squeakプロジェクトを支援しているキム・ローズ女史,ロクサーヌ・マロニ女史も参加した。


 1995年にアップルコンピュータにおいて,ゼロックスのPARCから来た人たちがSqueakの開発プロジェクトを立ち上げた。

 そのころ,Javaは複数のプラットフォームで使えなかった。Squeakの開発では,すべてのプラットフォームで動くようにVM(仮想マシン)に高級言語を載せ,シミュレータを作った。バグがあってもそれを仕様とした。できるだけバグ取りをした。数学的に低級言語に変換するトランスレータを書いた。非常に強力な技術だ。現在では25のプラットフォーム上で全く同じように動く。それが,数学的に保証されている。

 オープンソース・コミュニティやオープンソース標準ができているが,基本的に意味を保証されたソフトウエア・アーキテクチャであり,主流となりつつある。TCP/IPはヒューリスティックな情報の集まりで,インターネットの確実な働きを保証している。どのプラットフォームでも同じように動くところが素晴らしい。コミュニティがどのように規定しようと,すべてのプラットフォームで同じように動かないと意味がない。

オープンソースのほうがより信頼性が高い

 オープンソースのプログラムとベンダーのソフトウエアの間に,実質的な信頼性の違いはない。マイクロソフトのソフトで完全なものを見たことがない。Squeakはマイクロソフトのソフトウエアよりはるかにバグの数が少ない,そしてたくさんのプラットフォームで動く。バグは,25のプラットフォームで同じように発生する。1つのプラットフォームでバグを修正すれば,他のすべてのプラットフォーム上でのバグを修正できる。特定のプラットフォームを持つベンダーのたくさんのバグがあるソフトウエアより優れている。

 配布はインターネットで行う。難しいのはパッケージングだ。一般ユーザーが考え方を受け入れてくれることが重要になる。IBM,HPはLinuxを積極的にサポートしているが苦労している。HPはレッドハットなどの小さな企業に管理を依頼している。IBMは違う方法を取っている。両社とも一般ユーザーの理解を得るのに苦労しているようだ。

 Squeakについては,パッケージングとサポートの量と種類の違いが重要だ。その例が京都の6校における自分のカリキュラムの実施をサポートする体制だ。日本人は勤勉だ。Squeakを子供向けに解説したThoru Yamamoto氏のWebページはとてもすばらしいものだ。

 Yamamoto氏には会ったことはないが,私の講演内容を含めてあらゆる関連記事をダウンロードし,何百ページのホームページを作っている。Squeakの使い方のマニュアルを載せていて,日本で興味のある人はだれでも見られる。すべてを網羅しているので,非常に貴重で,そのWebページを英語に翻訳したくらいだ。これはオープンソースの好例だ。

 Squeakは,Smalltalkの一種だ。Smalltalkは数十万人が使っている。Squeakは数百人の子供が学習しており,大学でも使っているし,教師も使っている。エキスパート・レベルの人たちは相当使ってからコンタクトしてくる。オープンソースなのでユーザー数は把握できない。