本年1月末に来日したアラン・ケイ氏は,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムに出席し,スピーチやディスカッションをした。その中でケイ氏は,「本当のコンピュータ革命はまだ起こっていない。我々はコンピュータの持っている可能性を十分に生かしていない」と語った。
 フォーラムで語られた話題は,ITの将来展望,同氏が在籍したゼロックスのパロアルト研究所(PARC)が数々の発明を生んだ理由,子供とコンピュータ教育,同氏らが開発した「Squeak」というオープンソース・プラットフォーム,日本のIT産業への期待などなど,多岐にわたる。IT Proでは数回に分けて,アラン・ケイ氏の発言を紹介する。

 以下は,1月27日,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムにおけるアラン・ケイ氏の発言内容である。藤枝社長や来場者から出された質問に,ケイ氏が答えた。
 藤枝社長がナレッジの重要性についてスピーチし,それに対し,ケイ氏は次のようにコメントした。


 私の専攻は科学であって,工学ではない。17世紀に西欧の科学が生まれた。当時,科学者たちは宇宙がどのように構成されているかを知ろうとした。そのころのエピソードとして,ニュートンと王室天文学者の間の争いが有名だ。

 両者の間にはデータの共有がなかった。ニュートンは,自分の理論を検証するのに天文学者の持っているデータを必要としたが,見せてもらえなかった。今では信じられないことだが,その争いが25~30年続いた。

 科学が誕生した結果,支配者にとっても重要な科学に関する原則が樹立された。第1レベルですべてのアイデアを認めて検討し,第2レベルで批判する。これが重要だ。18世紀のアメリカの政治制度も憲法に関して同じ考え方を導入した。

 憲法の役割は第2レベルで制度のエラーを検査すること。アメリカ国民の生き方を規定するものではない。制度を揺るがすようなエラーを検査するのが目的だ。ジェファーソンは,5年ごとに憲法制定会議を開いて見直すことを提案した。その結果,生き方を規定しない現在のアメリカ合衆国憲法が生まれた。

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 藤枝社長は,「生き方を規定しない憲法を持つアメリカ」をみるアラン・ケイ氏の歴史観に深く同感したという。そして次のようにコメントした。

 アラン・ケイ氏は,アメリカやインターネットの持つ“生き方を規定しない”,ヒューリステックな柔軟構造のネットワークに基づくアーキテクチャを常に考える。そして,このアーキテクチャや考え方を,英国やIBMの決定論的設計システム概念と常に対比している。さすが素晴らしい,科学する心を持っている人だ。