本年1月末に来日したアラン・ケイ氏は,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムに出席し,スピーチやディスカッションをした。その中でケイ氏は,「本当のコンピュータ革命はまだ起こっていない。我々はコンピュータの持っている可能性を十分に生かしていない」と語った。
 フォーラムで語られた話題は,ITの将来展望,同氏が在籍したゼロックスのパロアルト研究所(PARC)が数々の発明を生んだ理由,子供とコンピュータ教育,同氏らが開発した「Squeak」というオープンソース・プラットフォーム,日本のIT産業への期待などなど,多岐にわたる。IT Proでは数回に分けて,アラン・ケイ氏の発言を紹介する。

 以下は,1月27日,グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長(オープン・グループ日本代表を兼務)が主催したフォーラムにおけるアラン・ケイ氏の発言内容である。藤枝社長や来場者から出された質問に,ケイ氏が答えた。
 藤枝社長がナレッジの共有とオープンソースの考えの関係を指摘したところ,ケイ氏は「インターネットこそオープンソースのやり方をしてきた。Linuxは一つも新しい話ではない」と答えた。


 インターネットがオープンソース・ソフトウエアを信奉する人たちによって発明されたことはとてもよかった。TCP/IPはオープンソース。すべてのARPAの開発はオープンソースだった。

 問題は,企業が一部の知的所有権にこだわっていることだ。発明がどのようになされて普及したかを考えてみよう。無料で自由に使えたから普及した。すべての所有権に反対するわけではないが,基礎的な発明は皆で共有すべきだろう。

 私たちは,Squeakというオープンソースのプラットフォームを開発したが,商業目的を含めて自由に使用することを許している。しかし,データ構造など基本的な改善点は発表して共有することをお願いしている。このアプリケーションで利益をあげる企業があってもかまわない。

 いろいろな発明に所有権を設定することは,馬鹿らしい。本当に価値のある発明はこれからだからだ。

 現在のオープンソースの動きは,英国で科学が生まれたときの動きに似ている。インターネットは,現在の質の悪いデファクト・スタンダードを嫌う,強力なコンピュータ専門家をグループとして集めるチャンスを与えてくれる。

コラボレーションの鍵は名誉

 世界の優秀な技術者が無料で私のプロジェクトに協力してくれるチャンスは100万分の1だ。それでも私のプロジェクトには,インターネットのおかげで200人の人が協力してくれている。世界中で2億人がインターネットに接続している。これにより,オープンソースのダイナミクスが変わった。プロジェクト協力のためのインフラストラクチャを設定しなくて済む。最初にSqueakを使った10人のうち4,5人が米国人で,他はドイツ人,日本人,ブラジル,アルゼンチン人だった。

 協力を可能にする結合力は名誉だ。頭がよくて,特別な知識にのみ興味を持っている人は,淋しいものだ。ほかの人が誰も関心を持ってくれない。しかし,インターネットにより共通の関心を持つ人を見つけることができ,その人たちと通信することが可能となった。

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 藤枝社長は,「全くこの考えに同意する」として,次のように総括した。

 昔,中国人の老人が次のようにつぶやいたことを思い出した。「もちろん,権利を知っていながらそれを無視することは悪いことだし,即刻やめなければならない。だが今,日本人が使っている漢字の使用料を中国が取っただろうかと考えてほしい」

 これは,「中国は知的財産権を認めず,コピー・ソフトに甘い」と厳しく追及されていたときのつぶやきである。アカデミーは何によって成り立っているのか?と色々考えさせられる。