「だってマーケティングはプロフィットセンターじゃないだろ?」――。
こう言われて、ムッとしないはずがない。そのときは気持ちがはっきりと顔に出ていたようで、相手は発言した後に、思わず一歩退いていた。
10年ほど前にGEヘルスケア・ジャパンでマーケティングの責任者をしていた私は、月例営業会議の後にこのひと言がきっかけで、技術部長ともめたことがある。
ここでいうプロフィットセンターとは、文字通り「プロフィット=利益」をどれだけ上げたかを計算される部署のことだ。利益を生むための「収益(Profit)」と「コスト(Loss)」が両方計算されるため、社内的にはPL部門とも呼ばれていた。
プロフィットセンターの代表は営業部門だが、客先での修理やパーツ販売によって収益がある技術部も自身をプロフィットセンターと呼んでいた。そして「マーケティングがプロフィットセンターじゃない」とは、「マーケティングは、会社の金を使うだけで収益を上げられない『コストセンター』である」という意味だ。
確かに損益計算上は、売り上げが立たないマーケティングはコストセンターに分類されてしまう。これはいた仕方ない。
それでも、こんなことを社内で面と向かって言われたのは初めてだった。表情を顔に出してしまったことは、大人気ないことだと思う。そして技術部長にそう言われたのには、実は伏線があった。
私が責任者を務めていたマーケティングチームは、当時の社長から「稼ぐマーケティング」として期待をかけられていた。マーケティング活動がきっかけとなって商談に結びついたといえることも少なくなく、私もたびたび会議やプレゼンで「うちのマーケティングはプロフィットセンターだ」と豪語してきた。
しかも、わずか200人ほどの日本支社で、当時のマーケティングには25人もいた。営業部の人数である30人とそれほど差がないこともあって、社内での風当たりは正直なところ強かった。
しかも営業や技術部が使える予算はわずかだったのに、マーケティングは億単位の予算を使える。こうしたことへのやっかみもあったと推測できる。
当時の営業部からは独自にキャンペーンをやりたいとか、マーケティングが断った展示会に営業として出展したいとか要望が上がっていた。技術部からはカタログやチラシを作りたいという声を聞いていた。「予算がなかったので、パワーポイントで作った資料を街のコピー屋さんで印刷して経費処理をしたんだ」と後で恨めしそうに言われたこともあった。