昨今のCATV/ADSLの普及により自宅のインターネット環境が常時接続の時代となり,自宅に各種サーバーを構築したいと思った人は多いのではないだろうか? ISP側からリースされるIPv4アドレスはDHCPなどによる動的割り当てが主流であるため,IPv4アドレスでの自宅サーバーへのアクセスや,常時接続時代のダイナミックDNSを利用する事によるサブドメインでのアクセスとなっている。そしてそれは現在では比較的容易に構築できる。

 しかし,何かもの足りない。やはり自分専用のドメインを取得し,それを利用してメール,Webなどを運用したいと誰もが思うはずである。DHCP配下の接続環境で何とかしてマイ・ドメインによるサーバーの運用を行う術はないものか。ふと,考えてみると僕の場合,自宅環境にはIMASYの技術スタッフである梅本さんから頂いたIPv6アドレス(当然固定アドレス)が/48もある。「これは何とかなるかもしれないな」と,そう感じたのであった。

 BUG(一般的に BSD Users Group の略)の集まりではカーネル回りやネットワーク,アプリケーション,そしてIPv6まわりに強い人が一堂に会して話をするBOF的なミーティングがたびたび開かれるが,その中で自分の考えを述べて意見を聞いてみた。

 「DHCPなIPv4環境下でIPv6 Readyなbind9でDNSを立ち上げて,IPv6で自分のドメインのzoneを転送してもらう。転送先のDNSをNICに登録すれば自宅サーバーはマイドメインで運用できるのではないか」

 有識者の方々からそれなりの反応を頂き,これはもしかしたらいけるのではないかという技術的な手答えをつかむと,次はDNSを提供してくれる人が集まる場が必要になる。そう考えて「IPv6転送DNS友の会」(http://www.icmpv6.org/v6trdns/)を立ち上げる事にした。ほんの少し前にicmpv6.orgというオシャレなドメインも取得していたので,これはなかなかグッド・タイミングだなぁという感じであった。

 実際に立ち上げるあたりWebとメーリング・リストも用意した。あとは大々的な広報活動が必要であるが,ちょうどタイミングよくInternet Week 2001が横浜が開催された。それに合わせて「BSDなひととき」というBOFが開催されるので,そこで時間をもらい「IPv6転送DNS友の会」の発表を行った。発表後の質疑応答ではIIJ技術研究所のいとじゅんさんからも好感触なコメントを頂き,さらなる手答えをつかむことになる。

 発表後はメーリング・リストのメンバーも増え,また,賛同しDNSを提供して下さる方も現れて,一応形は整った。そして後は利用者が現れるのを待つだけである。

 しかし――実際に利用したいと言う人はなかなか現れなかった。現状において,動的IPv4環境な人でIPv6アドレスを持っている人はまだまだほんの少数なのではないか? 時期的にまだまだIPv6は早いのではないか?という思いが頭をよぎる。

 利用者が現れないままだらだらと6カ月が過ぎたある日,初めての利用希望者が現れた。うれしいことである。ボランティア・ベースの会ではあるが,それまで用意していなかった会則を大急ぎで作り,Webで設定のヒントなどを公開して準備に奔走する日々が続いた。会としての格調と雰囲気がチラホラと漂ってきた。

 現在では会員の人数が60名弱,登録してあるDNSは14台,利用者は3名になっている。この記事を機会に更なる拡大をはかっていきたいと思っている。自宅サーバー用に IPv6アドレスを持っていて,自宅でマイ・ドメインでサーバーを構築したいと思っている方は是非「IPv6 転送 DNS 友の会」のWebをご覧になっていただきたい。

 現状でのIPv6はいまだに技術者・研究者の手の中にあるような気がしている。しかし,今後はユーザー・ランドでもどんどん使われる日が来るであろう。「IPv6転送DNS友の会」のIPv6の利用方法は発想の転換というか,こんな些細な方法でもIPv6の利用方法があるのだということを世間に知ってもらうにはちょうど良いのではと思っている。今後もIPv6の普及に貢献できればと思う。

 最後に「IPv6転送DNS友の会」の会則,第14条を紹介する。

「本会は IPv6 が普及しその役割が終わったと感じとれる時期が来た時には解散する可能性がある。」

 解散するのは惜しいことだが,そうした時代が早く来ることを待っている次第である。

高野有司
 普段は FreeBSD 方面に出没しているが IPv6 を手に入れてからはその利用方法を模索しているフシがある。「IPv6 転送 DNS 友の会」は自分のネットワーク環境を何とかしたいがために思いついた苦肉の策である。仕事絡みでは v6pc の総会に出た事もある。