「情報システムは人間を相手にしたもの。人を知り尽くして開発した情報システムでなければ経営の役には立たない」。イトーヨーカドーグループの鈴木敏文代表兼CEO(最高経営責任者)は2月2日、日経BPが開催したITソリューション展「NET&COM 2005」の基調講演で、こう主張した。

 基調講演のタイトルは「『消費の飽和』時代を勝ち抜く=ITに期待できること、できないこと」。その中で、鈴木CEOは、ITの必要性を認めつつも、その効果を最大限に発揮させるには、ITを活用するエンドユーザーと、情報システムを開発するシステム担当者の双方に、ITの外側にある人や、その心理を理解するための意識改革が必要なことを訴えた。その背景には「現在は、ITを活用しづらい時代。安易な使い方をすると、企業を間違った方向へ導いてしまうことすらある」との危機感がある。

 エンドユーザーに求める意識改革は、自らの仮説に基づいた戦略を立て、それを情報システムを使って検証する姿勢だ。「昔は、情報システムが出力したデータをそのまま業務に使えたが、今はそんな使い方では役に立たない」と指摘する。

 一方、システム担当部門に求めるのは、情報システムを利用する社員や、その先にいる消費者のレベルに応じたシステムになっているかどうかを検証すること。システム担当者は「とかく新しいシステムを作りたがるが、単純に新たな機能を増やしても、エンドユーザーが使いこなせない」」(鈴木CEO)からだ。その例として日米のセブン-イレブンが利用する情報システムの機能を挙げた。「米国は、日本と比べて2世代前のPOS(販売時点情報管理)システムを採用しているが、彼らの市場や業務のやり方を見れば、それで十分だ。ただ日本でも、2世代前の機能すら完全には使いこなせていない」という。

 セブン-イレブンは、POSシステムを使った仮説・検証型経営で成長した企業。その指揮を執る鈴木CEOの最大の関心事は消費者の心理にある。「データだけでは分からない消費者の心理を読み、自分なりの仮説を立てて戦略を練らなければならない」ためだ。それだけに、情報システムを利用する側にも、それを開発する側にも「人の心理を知ることが一番重要だ」と訴えた。

(鈴木孝知=日経ソリューションビジネス)