「顧客の顔が見えなくなっている」。ITサービス会社の2005年3月期決算から分かったことの1つだ。「案件が顧客企業の都合で先送りになった」「要件が固まらないうちにプロジェクトをスタートさせてしまった」など業績不振の理由は様々である。だが端的に言えば、SI(システムインテグレーション)といった各種サービスの売り込みだけを推し進めた結果、ユーザー企業の実態を把握できなくなったことに尽きるのではないだろうか。

 こうしたなか、ユーザー企業の姿を製品などの視点から、もう一度じっくりと把握しようとする動きが出てきている。日本IBMが2003年1月から取り組んでいる「OIO」と呼ぶサービスがそれだ。OIOはオープン・インフラストラクチャ・オファリングの略で一種のリース契約だが、実はアウトソーシングやBTO(ビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシング)と並ぶ、IBMのオンデマンドビジネス推進戦略の1つなのである。最近になって契約ユーザー数は100社近くに達しており、順調に拡大しているという。

 OIOの売り込みキャッチフレーズは「次世代IT基盤をユーザー企業のIT部門と一緒に考えましょう」だ。ユーザー企業の懐に入り込み、経営トップの考えや予算を含めたIT化の推進体制などを知ることから始めている。「顧客の正確な情報がなければいい提案ができるはずはない」という基本に立ち戻り、かつIT部門に再び力を持ってもらうという考えもあるようだ。

 OIOではまず、ユーザー企業のIT部門とチーム(IBMのメンバーは顧客担当営業のほか、ITアーキテクト、ハードやソフトの技術者、SEなど)を組んでITOC(ITオプティマイズ・コミッティ=IT最適化委員会)を設け、システムの検討に入る。だがその前に、現在ユーザー企業が使っているIBMや他社製品で構成するITインフラを、IBMのリース契約に切り替えてもらう点がポイントだ。契約は最低3年で、契約書にはサーバーごとの料金は書かれておらず、まとめて月額いくらとなっている。ユーザー企業には、OIOとアウトソーシングは同じように見える。だが、「アウトソーシングは(運用などの)仕事を外に出すものだが、OIOはユーザー企業が『こんなことをやりたい』といったときに、必要なハードやソフト、ネットワークなどの機器やサービスを調達する仕組みでもある」(日本IBMシステム製品事業クロス・ソリューション事業部第一ソリューション営業の吉田彰部長)。

 調達する機器やサービスはユーザー企業が決めるので、OIOにはIBM製品以外も含まれる。だがオープン製品となれば、競合他社をリードしているIBM製品になるのでは、という期待がある。実際、IBM内のOIO担当部門は製品販売のシステム製品事業である。

 ターゲットとなるユーザー企業もアウトソーシングと異なる。アウトソーシングはコスト削減などを目的にしたもので、IT部門やIT子会社の売却を伴うことが多い。それに対してOIOは、IT要員を自前で抱え、インソースで主導的にシステム構築できる力を持つユーザー企業が対象だ。ユーザー企業にとってもIT技術の習得やIT要員育成にもつながる。

 ただし、OIOに対する不満の声もある。契約したユーザー企業の半数は次世代インフラを決めたものの、経営環境の変化などから見直しに入るケースも多い。製品を安く調達し、運用・保守費用を削減することを最優先する場合もある。「IBMは当社のことを真剣に考えてくれるのか」といった懸念もあるようだ。吉田部長は「いいものを提案しきれていない面もあるかもしれない。議論や評価には時間がかかるのですぐに結論は出せない」と話す。そこで今後はユーザー数を増やすのではなく、1社ごとの関係をより強化する。ユーザー企業のIT部門やIT子会社との協調体制をいかに築くかが重要になるだろう。収益をサービスに頼る国産メーカーは、気がついたら「ユーザー企業にあるのはIBM製品ばかり」になっているかもしれない。

(田中 克己=編集委員室主任編集委員)