「競合はIBMメインフレームだ。ハード単体の信頼性は同等か超えた。価格性能比ははるかに優れている」。富士通のサーバーシステム事業本部長である山中明経営執行役は4月6日、インテルItanium2を最大32個搭載した基幹IAサーバーPRIMEQUESTを発表した。こんなあからさまなIBM対抗声明を国産メーカーから聞いたのは、いつのことだったろう。

 これに対してIBMはどう攻めてくるか。日本IBMの中に誕生した「山中ウォッチチーム」に近い消息筋は、(1)IBMがチップセット開発でItanium2のサポートを停止したことによるItaniumファミリー(IPF)の将来性の不安、(2)マイクロソフトやインテルが64ビットOSやエミュレータ開発で、既存の32ビットソフトを効率良く動かせる可能性が低いことを指摘する。IBMはマイクロソフトとインテルのIPFに対するコミットが弱い点を突く。「あなたはババをつかむのか」と問いかけるのだ。この不確実性こそ、IPF搭載サーバーの開発に投資する富士通やNEC、日立製作所、HP(ヒューレット・パッカード)4社が抱える共通のジレンマなのである。「マイクロソフトとインテルはエンタープライズ市場でIBMと本気で戦う気があるのか」。4社のサーバー関係者の口から漏れる本音で、それは「信じているが信じ切れない。もっとやる気を具体的に出せ」と、最後は精神論めいた溜息に変わる。

 2004年度の売上高が8%増と、2桁増に近づいたIBMはほぼ完全復活状態と言えそうだ。そこで「すべてのITベンダーの敵はIBMである」というこの業界の昔からの構図が再び鮮明になり、ITベンダーたちは、昔の敵であろうがなかろうがタッグを組み直し、IBMに挑もうとしている。例えば、マイクロソフトとサン・マイクロシステムズ。サンのホームページを見れば明らかだ。しかし、いかんせんポーズ的な要素も強い。

 「マイクロソフトもインテルも、サーバー4社を支援し、IBMと本気で戦う決意だ。しかし、どうやったらいいのかが分からないのが実情だろう」。ガートナージャパンの亦賀忠明バイスプレジデントはこう話す。強敵を何とかしなければと焦るが、十分に練られたIBMの戦略とその実行の前では、時間の経過と共に、IBMとのギャップが拡大する一方だ。IDC調べの世界サーバーシェアによれば、IBMは2000年に22.6%だったシェアを、04年には33.3%と11ポイントも伸ばしている。

 「IBM研究から始めるべき」とガートナーの亦賀氏は説く。黒船が来たと言われたIBMメインフレームを、皆でやっつけようとしていたあの熱い70~80年代の感覚だ。IBMは「オンデマンドで世界を変える」と言っている。その真意が分からないベンダーには手の出しようがないわけで、だからIBM戦略を読めという。

 今のIBMの弱点は何か。それは、IBMが仮想敵を米アクセンチュアと定めたことである。サム・パルミザーノCEOの目標は、08年まで年平均6%しか成長しない1兆2000億ドルのIT産業からIBMを解き放つことだ。IBMは技術を売り、サービスを行うだけでなく、その巨大な資源を使って、企業がビジネスを再考・再構築し、そして経理や人事、購買に至るまでの販売管理費の削減を支援する仕事の獲得を狙っている。パルミザーノCEOは“ITベンダーIBM”という会社の仕事の本質を変えようとしているのだ。

 IBMによると、04年の世界の販管費は19兆ドル。アウトソーシングは7%に過ぎないので、IBMはBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を積極的に取りに行く。この見知らぬ領域には熾烈な競争が待ち受けている。年商156億ドルのアクセンチュアがその最大のライバルだ。BPO経験ではIBMを凌いでいる。

 「これまでIBMは分散処理やダウンサイジングからメインフレームを守ってきた。しかし、もうその過去を擁護するつもりはない」とパルミザーノCEOは言う。IBMはITを超えて、新しいビジネスに入ろうとしている。そこがチャンスだ。意識の上では手薄になりそうなサーバー分野をどう攻めるか。知恵を絞れば必ず解はあるはずだ。

(北川 賢一=主任編集委員)