インドのITサービス企業が、日本市場で攻勢をかけている。下請けから脱却して、ユーザー企業との直接取引を精力的に展開する。日本のITサービス市場が低迷する中でも、インドITサービス企業は抜群の売上高成長率を誇る。



 「インドの開発拠点では、どんなことができるのか話を聞きたい」。インドの大手ITサービス会社、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)日本法人に、日本のユーザー企業からの商談が相次いでいる。「以前は避けられていたが、最近になって仕事が取れるようになってきた」と、TCS日本法人の梶正彦社長は言う。

 国内のITサービス市場の成長が踊り場を迎える一方、インドのITサービス企業の日本における売上高は、右肩上がりだ。みずほ証券によると、TCSとインフォシステクノロジーズ、ウィプロ・テクノロジーズというインドのITサービス大手3社の2004年度の日本市場向けの売上高は前年同期比約35%増、2005年度から2007年度までの向こう3年で毎年4割強の高い成長を続けていくと予想する。

 みずほ証券エクイティ調査部の秋山友紀ソフトウェア担当アナリストは「国内のITサービス業者に対する第3勢力として台頭し、拡大している」と見る。

世界最高水準の技術力

 バンガロールやチェンナイなどインドの開発拠点では、大勢のインド人技術者が、ソフト開発にあたる。大手の一角、ウィプロではオンサイトの技術者を含めると、日本のユーザー企業向けに約850人が従事している。

 ウィプロは、特に組み込み系ソフトや業務アプリケーションの開発に強みを持ち、東芝テックやオムロンなど製造業の有力顧客を多数抱えている。2005年3月期の売上高は53億円と、前年同期に比べて4割強の成長を遂げている。

 「到底無理だと思えるようなプロジェクトでも、成功させられる」と、ウィプロ日本法人の長尾正樹社長は、強みを語る。

 例えば、日本の大手電機メーカーからアジアの4カ所の拠点で独SAP製のERP(統合基幹業務システム)ソフト「R/3」を1年で導入するプロジェクトを引き受けたときのことだ。低予算で短納期のプロジェクトに、日本のソリューションプロバイダが尻込みする中で、ウィプロは納期通り昨夏にカットオーバーさせた。これが評判を呼んで、別の電機メーカーから今度は3カ月で中国の拠点4カ所にR/3を導入するプロジェクトを引き受けて、これも納期通りにカットオーバーできたという。

 困難なプロジェクトでも、納期通りに品質の高い成果物をユーザー企業に提供できる。世界最高水準と言っても過言ではない技術力が、インドITサービス企業の最大の強みになっている。

 ウィプロをはじめインドのITサービス企業では、システム開発のプロセスの能力成熟度を評価する基準CMMI(能力成熟度モデル統合)で最高のレベル5の認定を受けているのはざらにある。さらに、欧米市場で数多くのグローバル企業を顧客にして、システム開発のノウハウも蓄積している。

(中井 奨)