「営業担当カール・コークラン、CFOディック・ウッドハウス、データセンター事業担当デイズ・リーニング」。これは多国籍企業IBM が日本人に経営を任せていながら、日本IBMが不幸にして売り上げを対前年比減少させた約20年前、それを突いて日本IBMに送り込まれた米IBMマネジメントたちである。
そして、5分の1世紀を経た現在、日本IBMの国内売上高は2002年から3年連続で再び減少中だ。かてて加えて米IBMは2月24日、1月18日に発表した04年業績の修正をSEC(米証券取引委員会)に届け出た。「社内規定に照らして日本IBMの一部社員に不適切な“他社製ハード”の販売取引があった」ことを理由とし、04年の第1 四半期にまで遡り、総額2億6000万ドル(IBM社内レートで273億円)に及ぶコストと売り上げをグローバルサービス(GS)部門の業績から減じた。GS連結の0.6%、日本IBM GSの3%に相当する額だ。
かつて米IBMに“占拠”された屈辱を知る元日本IBM幹部は言う。「日本IBMの人間か、最近辞めた幹部が内規違反を米IBMに告発したとみる。それで米IBMが調査を発動。3カ月かけて見直し、内規違反が発見された。この日本IBMに対する不信感は、遅くとも年末の役員人事までに何らかの形で現れるのは避けられないだろう」。歴史は繰り返すのであろうか。
米国の企業内部統制をめぐる動きは、エンロンやワールドコムなど優良企業の相次ぐ破綻と会計スキャンダルで厳しさを増している。02年にはサーベイズ・オックスレイ法(SOX法)が制定された。同法では企業のCEOとCFOは、年次報告書と四半期決算の開示の妥当性、内部統制の有効性を宣誓。故意の違反者には最長20年の禁固刑や500万ドルの罰金が課せられるため、米IBMの修正申告は当然と言える。
日本IBMの一部社員はどんな内部規定違反を犯したか。日本IBMの大歳卓麻社長は「他社製ハードを100円で仕入れ、それを105円で販売した場合、売り上げを105円で計上するか5円で計上するかの類の問題」とだけ話した。この場合、付加価値が加わった取引かそうでないのかの問題となる。
「イモ版事件の再発か?」と詰め寄った老練な記者もいた。これは、80年代後半に顧客のIT部門長の検収印を営業担当者が三文判(イモ版)で勝手に捺印し、売上計上して目標を達成。日本IBM経理から顧客経理に請求書が発行され、顧客が支払ってしまったもの。
昨年末に営業職を退職した前日本IBMerは「そういう不幸なイモ版事件ではないだろう。おそらくSI崩れを意図的に営業とGS関係者が仕組んだもの」と想像する。大歳社長も「顧客には関係のないこと」と話した。
業務ソフトの開発あるいはIBMソフトが含まれた他社製ハード使用によるSIは「付加価値がある」と判断される。それ以外の他社製ハードの取引は「付加価値がない」として、その他売り上げに計上されノルマに組み込めないのがIBMの内規だ。だから(1)SIを獲得したものの自社ハードで敗れた場合、SI出来高を膨らませるため、本来なら付加価値のない他社ハードを競合に頼み込んで組み入れる、(2)他社ハード組み込みのSI商談で、開発やソフトで競合に負けたにもかかわらずSIと称して計上し、四半期をまたがって顧客都合を理由にSIをキャンセルする、など至極単純な手口らしい。詳細はおいおい明らかになるだろう。
「不適切取引の発生には伏線がある」と前営業職は言う。サム・パルミザーノCEOが誕生した02年から、日本IBMの対象者約2000人とされるインセンティブ制度が年1 回から四半期ごとに変わった。このため四半期ごとの売上目標の達成がきつい。敗者復活がほとんどないので無理をしがちなのだという。最近「強いIBMハード」が復活したようである。不正防止のため他社製ハード組み込みSIを禁止してみてはどうか。