統合管理ツール市場は、前年比2ケタ増の堅調な伸びを維持している。04年度の出荷金額の見通しは、日立製作所、富士通、NEC、日本HPの順。個人情報保護法施行を前にした特需もあってセキュリティ分野が大きく伸びている。今後はITIL関連需要への対応で売り上げ拡大が期待できそうだ。




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図1●主な統合管理ツールの販売状況(金額ベース)
 統合管理ツールの2004年度の国内市場は、主要メーカー8社の合計で、1667億5000万円(本誌推定、以下同)。2003年実績の1464億円に比べて、13.9%増を見込む。各社とも引き続き堅調な伸びを予測しており、2005 年度は12.9%増の1883億円に膨らむ(図1[拡大表示])。

 統合管理ツールは、障害監視やジョブ管理など、複数の管理機能を持ち、企業システムの統合的な運用管理を行うためのソフト製品群。そのうち、各社が好調な売り上げと口をそろえるのは、セキュリティ分野だ。今年4月の個人情報保護法施行を前にして、ユーザー企業の関心が高く、シングルサインオンやIT資産管理といった関連製品が大きく売り上げを伸ばしている。一過性の需要という見方はあるものの、各社とも2005年度も引き続き大きな成長を見込む。

 一方、管理ツールがそれほど浸透していない中堅・中小企業への販売を強化する動きも顕著だ。「2000年問題のときに置き換えたサーバーの更新商談が活発になっており、スタンドアロンで稼働している会計のような業務システムなど、従来オフコンが占めていた市場で、管理ツールのニーズが高まっている」(日立製作所の友成文隆ソフトウェア事業部販売推進部部長代理)からだ。

各社ともITIL対応に注力

 サーバーやアプリケーションの監視、セキュリティといった個々の管理製品とは別に、成長確実な新市場として、メーカー各社が昨年来こぞって力を入れているのが、ITIL(IT インフラストラクチャライブラリ)への対応だ。ITILは運用保守業務のベストプラクティスとして注目が高まっており、大手ユーザー企業を中心に、ITILをベースに運用・保守プロセスを見直す企業が増えている。

 メーカー各社は、ITIL導入のためのアセスメントや導入サービスなどを提供するとともに、統合管理ツールのITIL対応を進め、拡販を図る。コンピュータ・アソシエイツの藤岡健営業・マーケティング統括本部統括本部長は「昨年1 年間で、50~60件のITILアセスメントの案件があった。そのうち1~2割は、管理ツールの販売にもつながっている」と話す。各社は、障害管理や構成管理といった、従来の製品が持っていた機能を、ITILのガイドラインに沿って使いやすく整理し直したり、足りない機能や製品を追加している。

 ITIL関連のビジネスは、導入コンサルティングなどを伴い、管理ツールを販売すれば済むわけではない。ソリューションプロバイダにとって参入の敷居は高いが、ユーザー企業の全社的な運用・保守業務の見直しにつながれば、大きなビジネスになる可能性がある。現在、ITIL関連の売り上げは、メーカーの直販が中心だが、各社ともパートナー向けの教育や支援に力を入れており、間接販売での拡販にも乗り出す。

 全社的なシステムのライフサイクルを通じて運用・保守プロセスを最適化するITILへの対応は、各社がここ数年掲げてきた自律コンピューティングのコンセプトや、サービスレベル管理、ビジネス管理といった上位レベルの管理のニーズにも合致する。各社は、リソースの仮想化機能や、障害や性能低下を予測して修復やリソース配布を自動化する機能、機器の障害が業務にどう影響するかを管理する機能などを強化している。

日立がトップを堅持、伸びはHP

 統合管理ツールのシェア1 位は、2003年度に390億円を出荷、2004年度に430億円の売り上げを見込む日立のJP1。前回調査に続いてシェア1位を堅持した。2004年3月に、JP1ブランドに組み込んだ情報漏洩保護製品のJP1/秘文(日立ソフトウェアエンジニアリング製)や資産管理製品が好調で、セキュリティ分野の売り上げを大きく伸ばした。

 日立は今年3月、中小企業向けのJP1 Smart Seriesを発売し、新しいユーザー層獲得に力を入れる。今回発売したのは、ジョブスケジューラとIT 資産管理製品の2種類。日立の友成部長代理は「サーバーの管理者がいないような小規模なユーザーがターゲット」と話す。日立はそのほか、同社のブレードサーバーの自動割り当て機能などを持つ製品を3月に発表するなどの製品強化を実施。2005年度は前年比10%増の475億円の販売を目指す。

 2位の富士通は、2004年度は前年比10%増の420億円の売り上げを見込む。同社は2004年11月に、新版のSystemwalker V12を発売。サーバーやストレージの仮想化やサービスレベル管理といった自律運用向けの機能や、ITIL対応のサービスマネジメント機能などを強化した。

 富士通は、Systemwalker をサーバーやストレージ、Webアプリケーションサーバーなどと組み合わせた、システム基盤ソリューションの販売も強化している。製品の組み合わせを事前検証し、構築、運用のためのドキュメントなどからなる「TRIOLE テンプレート」として提供している。

 3位のNECも、システム基盤ソリューションとしての販売を強化する1社。ストレージ統合やレガシーマイグレーションなど、ユーザー企業のシステム化の要求に合わせ、WebSAMをハードやミドルウエアと組み合わせた「プラットフォーム最適化ソリューション」を提供する。今年1月には、小規模システム向け統合運用管理製品SystemNavigatorを発売するなど、中小企業向けの販売も強化しており、2005年度は前年比15%増の393億円の出荷を目指す。

 日本HP のOpenViewは、2004年度の売り上げが前年比4割増の200億円と、他社を大きく上回る伸びを達成した。河口雄一郎ソフトウェア統括本部ソフトウェア・マーケティング部部長は「サービスレベル管理や、ITILにからむ運用管理が直販で伸びたほか、コンパックとの合併効果が、運用管理ツールでもようやく出てきて、OpenViewを扱う販売パートナーが増えたため」と分析する。

 日本HPは今年前半、ツールの構成や設定などをドキュメント化したITIL対応ソリューションの導入テンプレートを用意するなどにより、パートナー経由でのITIL関連の拡販にも、力を入れていく計画だ。

(森重 和春)