アイ・オー・エスが、飛び込み営業をきっかけに駒沢大学のセキュリティシステムを受注した。飛び込み不毛地帯である大学市場に食い込めた勝因は、顧客の要望を先読みした提案だ。(文中敬称略)



 「多い月は20人の飛び込み営業と会う。ただし、合格する営業担当者は20~30人に1人」―。駒沢大学 総合情報センターで係長を務める徳本克彦が実践するITベンダーとの付き合い方だ。

 駒沢大学は2006年に、ネットワークのセキュリティ対策を大幅に刷新する。目的は、教員や学生が、ウイルスに感染したパソコンを学内に持ち込んでウイルスがまん延するといった事態を防ぐこと。徳本が飛び込み営業を受けるのは、新しいセキュリティ対策の検討材料を収集するためなのだ。

 セキュリティ強化の第一歩として駒沢大学は昨年3月、ファイアウオールやウイルス対策、IPS(侵入防止システム)などの機能を備えた統合型セキュリティシステムを導入した。ウイルスに感染したパソコンが学内の無線LANに接続した場合でも、基幹ネットワークに被害を広げずに済む。そして、この商談を受注したのは、徳本の厳しい飛び込み営業審査を通り抜けたアイ・オー・エス(IOS)の井上倫文だった。

 通常、大学は特定のベンダーに囲い込まれており、飛び込み営業の不毛地帯ともいえる。駒沢大学もインフラ部分を伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が、がっちり握っており、2006年の大刷新もCTC主導で進んでいる。一見、食い込むのが不可能な状況に思えるが、井上は顧客の要望を先読みした提案を地道に続け、数少ないチャンスをモノにした。

飛び込み営業でいきなり受注

 井上が飛び込み営業をかけたのは2002年6月。当時、駒沢大学は、セキュリティ対策の強化を検討し始めていた。教員や学生が、悪意のあるWebサイトにアクセスしてウイルスに感染するとか、持ち込みパソコンからウイルスが広がるとかいった問題が発生したのだ。

 企業とは違い、大学には教員や学生の私物パソコンがたくさん存在する。その上、駒沢大学は私物パソコンでも、学内各所に設置された無線LANのアクセスポイントやインターネットを介して学内ネットワーク「KOMAnet」に接続できるようにしていた。便利な半面、大学内でのウイルス感染は増える一方だった。

 セキュリティ強化が必要なことを痛感しつつも、システム畑出身ではない徳本たちには、知識や情報が足りない。そのため、飛び込み営業も情報収集の一環として断らなかった。ただし、使えない営業担当者には、30分で「帰ってくれ」と言い渡す。付き合いが続く営業担当者はごくわずかだった。

 井上も最初は、数多くやってくる飛び込み営業の一人。その際にはURLフィルタリングソフトの提案を行った。「小中学校ではURLフィルタリングが必須。同じ教育機関の大学でも必要とされるかもしれない」。こう考えた末の選択だった。

(鈴木 孝知)