NTTコミュニケーションズが競合3社を振り切り、ミツカンからモバイル商談を獲得した。勝因は、要望があいまいな顧客に対して、RFP(要求仕様書)作りを“代行”するほどフォローした提案手法にある。

 「この人たちは、auの携帯電話機しか持って来てないのか」―。ミツカングループで共通業務を担うミツカンビジテックでは、情報企画課課長の田平浩樹と同課主任の桝田浩司が、新鮮な驚きを感じながらNTTコミュニケーションズ(NTTコム)の担当者2人の説明に聞き入っていた。「当社のサービスならこんな機能があります」と実演してみせた端末が、NTTグループの宿敵であるKDDIの携帯電話サービス「au」用のものだったのだ。

 この日に田平らを訪ねたのは、NTTコムでミツカンを担当する東海支店第一営業 営業担当部長代理の山下守と、サービス説明のために同行したプラットフォームサービス部モバイルソリューショングループサービスマネージャーの黒崎悦雄。実は、あえて初回にNTTドコモ以外の端末でデモを行うのは、黒崎のグループがよく使う“小技”の1つだ。

 黒崎は、事前に顧客と話をした山下から、ミツカンが携帯電話サービスに依存しないソリューションを希望していることを聞いていた。この「マルチキャリア対応」こそ、ミツカンが今回採用したNTTコムのモバイル向けアクセスサービス「モバイルコネクト」の売り物だ。しかし「NTTグループなのだから、NTTドコモを推奨したり、auなどでは制約があるのでは」と思う顧客は多い。この疑問を質される前にauの端末をデモ機に使えば、「NTTグループ」という先入観は自然と払拭できる。

 今回の商談をNTTコムが制した勝因は、こうした“小技”のように「顧客の要望を敏感に察知し、先回りで答えを出す」という提案手法にあった。というのも、モバイル商談では、導入効果に興味はあるがやりたいことがあいまいな顧客が多い。ミツカンの田平も「技術的に右も左も分からない状況で、導入を思い立った」と振り返る。後述するように、NTTコムはそんな顧客のRFP作りまで代行した。

(玄 忠雄)