■ITサービス業にも、個人業績などで賃金が決まる「成果主義」が急速に浸透してきた。しかし、数字での評価に慣れているはずの営業現場で、今、あつれきが起きている。

■本誌は、あくまで評価される側の視点からその実態に迫るべく、アンケート調査を実施した。調査対象は、ITサービス業界に属する営業職(提案営業に携わるSE職も含む)だ。

■その結果から、成果主義の導入前に営業職が描いた「理想」と「現実」の大きな隔たりが浮かび上がった。成果主義の導入前に、自己の賃下げを予測する人は4.3%に過ぎない。しかし、実際に賃金が下がった人は3割を超える。また、5割近い営業職が自己の評価に不満を抱いている。受け身のままでは、このギャップは埋めらない。勝負できる場所は、営業職自らが自分の手でつかむという意識が必要だ。

図1●成果主義賃金制度の導入状況と賃金格差の現状
導入済みの企業に属する回答者の37.0%、1.3倍以上の賃金格差に直面。未導入の企業では34.0%が、賃金格差1.1倍未満に収まる
図2●成果主義で勤労意欲は変わるか
現在、年功序列型の企業に属する回答者の6割が成果主義で「勤労意欲が上がるだろう」と回答。しかし、導入済みか移行中の回答者では「上がった」と「下がった」の回答がきっ抗
 「自分の営業成績が給与に大きく反映されれば、モチベーションが高まり、今以上の賃金アップを達成できるはずだ」。仕事にやりがいを感じている営業職なら、こう考えるのは自然なことだろう。

 しかし、いざ成果主義が導入されると、給与水準が上がらないどころか、多くの人には賃下げとなる可能性がある−−。アンケート結果から、営業職が直面しているこんな状況が浮かび上がった。

 右上の円グラフ[拡大表示]を見てほしい。「成果主義で、あなたの賃金はどう変わるか(変わったか)」。この質問を、成果主義ではない(=査定給の割合が小さい年功序列型)賃金制で働く営業職と、成果主義が適用されているか、その移行段階(計画中を含む)にある営業職にそれぞれ聞いた結果だ。

 成果主義が未導入の企業の営業職は、「大きく上がるだろう」と「やや上がるだろう」を合わせ53.2%が賃金アップを確信し、賃金ダウンを予測する人は4.3%にとどまる。しかし、成果主義が導入済みか移行中の営業現場で、実際に賃金が上がった人は36.0%に過ぎない。30.7%を占める「賃金が下がった人」ときっ抗した水準だ。

 成果主義では、同一年令でどのくらい賃金格差が開くのだろうか。

 今回のアンケート回答者のうち、成果主義が適用されている人の割合は57.9%に達している。移行中の人と未導入の人が、それぞれ約2割を占める。それぞれの回答者層に、最大の賃金格差を聞いたのが図1[拡大表示]だ。成果主義が未導入の場合、「1.1倍未満」と答えた割合が34.0%を占めるのに対して、成果主義が導入済みの場合、37.0%の人が1.3倍以上の格差がつくと答えている。

成果主義は「パイ」の最適分配

 この結果は、成果主義の1つの側面を表している。横並びで昇給する年功序列型賃金制が立ち行かなくなる中、「企業の限られたリソース(賃金の原資)をどう最適に配分するか。多くの企業がその解決策を成果主義に求めた」(NECの藤原信次郎人事部人事企画グループ人事統括マネージャー)結果、導入企業が一気に増えたという側面があるのだ。

 ただ見逃せないのが、成果主義が全体として営業職のやる気を高めていない点だ。成果主義を導入したITサービス企業の多くは、「営業職のやる気を引き出し、業績向上につなげる」という効果にも期待したはずだ。

 しかし、成果主義が導入済みか移行中の営業職では、以前より「勤労意欲が高まった」と回答したのは「大きく」「やや」を合わせて36.6%どまり。逆に「意欲が下がった」と回答した人も33.3%に達する(図2[拡大表示])。

 これに対して、成果主義が未導入の営業職になると、「意欲が下がるだろう」と回答した人は6.4%に過ぎない。営業職が描く成果主義の「理想」と「現実」のギャップはあまりに大きい。

(玄 忠雄)

アンケート結果の詳細