アウトソーシングに一家言あるITコンサルタントが斬った。「業務やITのフルスコープ型も含めて、アウトソーシングビジネスは近い将来、破綻する」。米JPモルガン・チェースの例を引くまでもなく「アウトソーシングはもう流行遅れになりつつある」という。

 その理由を、同コンサルタントは「米IBMと米アクセンチュアというアウトソーシングのビッグネームでさえ、コスト削減の決め手を、インドや中国、その他の低賃金国にアウトソース(オフショア)する“ローテク”に委ねているからだ。しかし、大きかったアジア諸国との賃金格差は急速に埋まっている。賃金格差を利用したアウトソーシングから引き出せるコスト節約は、遅かれ早かれなくなることが見えている」と話す。

 EMシステムコンサルティングの東山尚社長も、このITコンサルタントの見方に同意する。「米GEは先頃、インドで処理していたビジネスプロセスやITアウトソーシング事業を10億ドルで売却すると発表した。それを受けて、海外アウトソーシングはピークに達したとの見方が浮上してきた。GEは、賃金格差を突いたビジネスが成立しなくなると読んだのだ」。

 企業のグローバル戦略において、海外アウトソーシングが今後も、重要な部分の一つを占めるだろう。統合ビジネスの世界において企業は、最も優れた才能が存在するところへと向かうからだ。ただ、極めて“安価な頭脳”を求めてインドや中国、東欧に向かっていた企業は、まもなくそれを止めるかもしれない。アウトソーシングもだれもが期待していたよりも、ずっと早く終わりを迎える可能性がある。日本や米国とアジアとの賃金格差がせばまってきたのが、その背景だ。

 2年前、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)が米ユーザーを調査した。米金融業界の平均賃金は当時年4万ドルなのに対し、IBMやアクセンチュア、米EDSなどの社外ベンダーは同6万ドルだった。訪問した金融ユーザーは「彼らにアウトソースしてコストダウンできるとは思えない」と首を傾げるばかりだった。そのベンダーマジックがオフショアだったわけだ。東山社長によれば「周知のように日本も米国も賃金は下がりさえすれ上がりはしない。逆に、インドや中国のIT専門技術者の給与は天井知らずで上昇し続けている。先の金融ユーザーは企業内IT部門の組織や人材によるITガバナンスの方がコストダウンには効果的と回答した」。

 インドや中国では、英語を話す大卒の専門家が増えたことが、賃金を上昇させている。欧米企業は、コールセンターや設計、会計、医療サービス、法律サービスなどの多くを海外に送っているため、これらセンターで働く人々の需要が急増した。インド人や中国人も需要と供給の関係を見極め、ますます高い報酬を求めるようになり、そして得るようになった。両国で予想されているGDP年成長率8~10%は、今後も需要を高めるだろう。その結果、賃金は上がり続ける。これはオフショアの重要な展開だ。

 冒頭のITコンサルタントは「オフショアを成功させるには、日本や米国とインドや中国の従業員のあいだに少なくとも4~5倍の賃金格差がなければならない。文化や商習慣、コミュニケーションギャップのリスクをカバーするための費用が必要だからだ」と話す。

 ソフトやその他業務のオフショアは、それを進めれば進めるほど先進国側の業界賃金は下がり、賃金格差をさらに縮めていく。まだ完全に埋まっているわけではないが、インドや中国のIT技術者や専門家が、日本や米国との賃金差4~5倍を埋めるのも時間の問題だ。その時点で、オフショアは減少し始めるだろう。

 東山社長はこうも指摘する。「見逃されがちなのは、労働市場の柔軟性と流動性だ。国際機関は知的労働者の賃金ギャップの是正に取り組んでいる」。サービス事業の海外委託でコスト節約を目指す企業にとって、これはありがたくないことだ。しかし、インドや中国、そして日本や米国の労働者個人にとっては良いことだ。高度な教育を受けた労働者が“安く”手に入る時代は終わりに近づいている。

(北川 賢一=主席編集委員)