2004年7~9月期の業況判断指数は、業況DIと売り上げDIは前回に引き続いて増えたが、粗利益率DIがやや下がるなど一部に不安も見える。ユーザー企業のIT投資意欲は前回に比べて後退した。

図1●ITサービス業界の業況DI*1の推移
前回に引き続き、業況DI、売り上げDI、利益率DIのすべてが右上がりになった。売り上げDIは前回の見込み(点線)より、やや増えた。今回は91社*2が回答
図2●業態別業に見た業況DIの推移
ソフト会社、販売会社ともに改善しているが、ソフト会社の方が伸びが大きくなっており、販売会社は横ばいに近い
図3●業態別に見た売り上げDIと粗利益率DIの推移
販売会社の売り上げDIは大きく改善したものの、粗利益率DIは前回よりさらに悪化し、マイナスになった。ソフト会社は売り上げDI、粗利益率DIともに伸びている
図4●業種別のハード/ソフトの売り上げDIとサービスの売り上げDIの推移
販売会社はハード/ソフト売り上げDIとサービス売り上げDIはともに横ばい。ソフト会社のハード/ソフト売り上げDIとサービス売り上げDIは改善している
図5●ユーザー企業の情報化投資意欲に対する見方の推移
前回に比べ「高まっている」との回答が大きく減っており、「変わらない」が増えている
 2004年7~9月期の業況DI(ディフュージョンインデックス)は、前回の5から今回は15に増え、特に売り上げDIは前回の21から今回は36と大きく上昇した。半面、粗利益率DIは前回の5から今回は3とやや下がった(図1[拡大表示])。「ユーザー企業のIT投資意欲をどう見るか」も聞いたが、「高まっている」との回答が全体では前回の52%から今回は35%にトーンダウンした(51ページの図5[拡大表示])。

 前回の2004年4~6月期の業況調査では、業況DIや売り上げDI、粗利益率DIの3つの指標がすべて上昇してプラスになり、ITサービス業界に久しぶりに明るい兆しが見えていた。それが今回の調査では、2004年度下期の回復に向けて引き続き期待は高まるものの、一部に不安な要素も残す結果になった。

 こうした動きの背景には、ユーザー企業がITサービス会社を選別する目がいっそう厳しくなっている点が挙げられる。調査結果の自由意見欄を見ると、回復による期待感よりもユーザー企業の意識やIT投資の“質”の変化に対する不安の声が大きい。

 例えば、「ユーザー企業の業種によってばらつきはあるが、IT投資は回復基調にある。ただし単価の低下や値引き要請は継続しており、収益面で厳しい状況に変化はない」(ソフト会社)、「IT化投資の内容が構築から運用へ大きく変化している。今後はITIL(ITインフラストラクチャライブラリ)の取り組みを含め、ますますこの傾向は強くなる」(販売会社)といった意見が多い。このほかにも、「IT化投資の意欲は高いが、ITサービス会社に対するの選別の目は厳しく、単純に利益に反映されない場合もある。特に質の高い技術者については不足感が強まっている」(ソフト会社)などや「大手ユーザーのIT投資は回復傾向にあるが中堅・中小ユーザーは依然として厳しい」(販売会社)といった声もある。

 調査結果を見る限り、ITサービス業界にとってこれまでの低迷期を脱する大きなチャンスが来ていることは間違いない。今回、調査した2004年10~12月期の見込みの数値では、業況DIや売り上げDI、粗利益率DIの3つの指標がすべて右肩上がりになり、今後の回復に大きな期待がかかる。

 だが、すべてのITサービス会社が回復の波に乗れるとは限らないだろう。回復といってもユーザー企業の意識が変化している中、過去のケースは手本にならない。様々な要請に対応しつつ、利益も出せるような体質改善を実現できたITサービス会社が生き残れる。

販売会社は粗利益率が悪化

 全体が回復基調に向かう中、ハード/ソフトなど商品販売が主体の「販売会社(販社)」とソフト/サービスなどの開発・提供が主体の「ソフト会社」に分けて業態別の業況DIの推移を示したのが図2[拡大表示]である。全体の業況DIは前回の5から今回は15に伸び、前回は横ばいだった販売会社の業況DIは14から今回は19に増えた。ソフト会社は前回の2から今回は13になるなど、ITサービス業界全体の回復基調がいよいよ本物になってきたように見える。

 ただし粗利益率DIを見ると、販社の事業状況にはまだ課題が残るようだ(50ページの図3[拡大表示])。業態別に細かく売り上げDIと粗利益率DIを見ると、販売会社の売り上げDIは前回の31から今回は47と大きく増えたが、粗利益率DIは前回のゼロからマイナス11になるなど悪化している。単なるハコ売りではなく、付加価値を高めたソリューション提案をもっと推進しないと、価格低下に巻き込まれ、収益を悪化させるだけだろう。

 自由意見欄では、「投資意欲は強いが予算枠は大きくない。利益率をいかに高めるかが課題となっており、保守・インストールなどのサービスに加えてアウトソーシングを強化している」「機器販売ではユーザー企業からの低価格化の圧力が続いており、ソリューション型のビジネスがいっそう重要になる」といった声が販売会社から上がっている。

 図3でソフト会社を見ると、売り上げDIは前回の16から今回は13ポイントも上昇し29になった。粗利益率DIは前回の8から今回は13になるなど順調に回復している。とはいえ低価格化の圧力は販売会社と変わらない。コスト削減のさらなる努力が続いており、ソフト会社からは「投資意欲は高まっているが、ソフトの価格や品質に対する要望がさらに厳しい」「コスト意識に伴って中国をはじめとするオフショア開発に各社がどこまで注力するのかその動向に注目している」などの声が聞こえる。

 図4[拡大表示]にソフト会社と販売会社について、ハード/ソフト部門の売り上げDIとサービス部門の売り上げDIの推移をそれぞれ示した。

 販売会社のサービス部門の売り上げDIは前回の34から今回は36と2ポイントしか伸びておらず、販売会社のハード/ソフト部門の売り上げDIも前回の28から今回も28と横ばいだった。

 ソフト会社のサービス部門の売り上げDIは前回の26から今回は33と7ポイント増えた。ソフト会社のハード/ソフトの売り上げDIは、前回の3から今回は9になっているが、10~12月の見込みでは5に下がっており、ソフト会社はハード/ソフトの伸びにあまり期待していない。

運用関連のニーズは高い

 ユーザー企業のIT化投資意欲に対しては、「高まっている」との見方が全体では前回の52%から今回は35%と大きく後退した。「変わらない」は前回の46%から今回は63 %に増えている。

 業種別で見ると、ソフト会社では「高まっている」との回答が前回の48%から今回は31%になった。「変わらない」は前回の48%から65%になった。販売会社でも「高まっている」は前回の59%から今回は42%に下がったほか、「変わらない」は前回の41%から今回は58 %になっている。

 IT投資に対する見方は、各社の個別の事情が大きく反映されているようだ。「投資意欲は変わらないが、合併や統合・再編などが予定されるユーザー企業においては、大規模投資が凍結されるため、そうしたユーザー企業を持つ当社のような企業には現在の環境は厳しい」(ソフト会社)。「食品業界のIT投資に期待。ここ数年トレーサビリティが話題になるが、投資対効果の検討も含めて実質的な投資はこれから。セキュリティも同様にユーザー企業の利益には直接貢献しないが、保険的な意味を持たせて提案していく」(ソフト会社)。

 システムの運用関連を今後のIT投資の狙い目と考える向きも多い。「TCO(所有総コスト)削減を狙ったオープン化であったが、マルチベンダー化の進展とともに運用の困難さに直面しているため、セキュリティを含めた総合的な運用管理が求められる」(ソフト会社)といった意見や、「短納期・低価格化の傾向は続き粗利率は厳しい半面、運用系のアウトソーシングのニーズは高まっており、全国的に規模の大小を問わず商談は活性化している」(販売会社)といった声がある。ユーザー企業のニーズをどうとらえ、どんなソリューション提案につなげるか、ITサービス会社の知恵がますます問われるだろう。

調査の概要

 「ITサービス業の業況調査」は、企業向けIT市場の景気動向のすう勢を把握することを目的に、本誌が四半期ごとに実施しているアンケート形式の調査。今回は2004年9月上旬に上場しているシステムインテグレータやディーラー、それらに準じる会社など計124社に対しアンケートを依頼し、91社から回答を得た。このうち、ソフトハウスや保守・サービス会社などサービス販売を主体とする「ソフト会社」が62社で、コンピュータ商社やディストリビュータなど製品販売を主体とする「販売会社」が29社だった。

 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている指標。本調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。


大山 繁樹