2004年4~6月期のITサービス企業の業況判断指数は、すべて右肩上がりになった。 ユーザー企業のIT投資意欲が高まり、明るさが見えてきた。半面、 ITサービス会社を選別するユーザー企業の目は一段と厳しくなった。

図1●ITサービス業界の業況DI*1の推移
予測(点線)したほどではないが、業況DI、売り上げDI、粗利益率DIのすべてが右上がりになった。今回は91社*2が回答
図2●業態別に見た業況DIの推移
販売会社はやや横ばいだが、ソフト会社は大きく改善している
 ITサービス業界にようやく明るい兆しが見えてきた。2001年10~12月期にマイナスに転じて以来、2004年1~3月期まで2年以上も低迷していた業況DI(ディフュージョンインデックス)だったが、2004年4~6月期の数値は前回のマイナス1から6ポイント増加し、プラス5になった。加えて、売り上げDIは前回の16から21に増えたほか、粗利益率DIもマイナス4から9ポイントも増加し、プラス5になった。業況DIや売り上げDI、粗利益率DIの3つの指標がすべて右肩上がり、しかもプラスになったのである(図1[拡大表示])。

 前回の2004年1~3月期の場合、業況DIだけ右肩上がりだったが、マイナス8からマイナス1に改善された程度。売り上げDIは19から16に落ち込み、粗利益率DIはマイナス4と横ばいだった。しかし今回は、すべての指標がプラスの方向に改善しているほか、ユーザー企業のIT投資意欲も大いに高まっている(76ページの図5)。

景気回復の追い風に乗る

 業況の指数がすべて右肩上がりになった理由の1つには、日本経済全体の景気回復もありそうだ。日本銀行は6月に実施した企業短期経済観測調査(短観)の結果を7月1日に発表したが、企業の景況感を表す業況DIは大企業の製造業でプラス22と前回の3月調査から10ポイントも改善し、バブル崩壊後の最高となった。中小企業の製造業も5ポイント上昇したプラス2になり、約12年半ぶりにプラスに転じた。

 こうした動きが、日本経済の本格的な景気回復に結び付くかどうかはまだ未知数だが、ITサービス業界にとって今までの低迷期を脱する大きなチャンスが来ていることは間違いない。このチャンスをうまくつかむことができたITサービス会社だけが景気回復への波に乗れる。「勝ち組」「負け組」への大きな分かれ目だ。

期待と不安が交差する

 ただし、ユーザー企業のIT投資意欲が高まっても、すべてのITサービス会社が今までのような恩恵を受けるとは限らない。リストラや業務改革などを次々と断行し、自らの無駄な肉を徹底的にそぎ落として効率化に努め、やっと回復を成し遂げたユーザー企業がITサービス会社を選別する目は、今までよりいっそう厳しくなっているからだ。

 調査結果の自由意見欄を見ると、景気回復を手放しで喜べないITサービス会社の不安が垣間見える。

 「ユーザー企業のIT投資意欲は高まってはいるが、ITサービス会社を選別する視点は厳しい。単なる低価格の物品販売だけではなく、いかにユーザー企業の状況を把握した上でのソリューションを提案できるかにかかっている。したがって、従来型のプロダクトアウトではなくマーケットインの発想での販売活動がユーザー企業の評価を得る鍵と考える」(販売会社)という声のほか、「ユーザー企業のIT投資に対する姿勢や意識が高まる中、このままでは規模やサービス力による選別が強まり、ITサービス会社の業績も二極分化していくのではないか」(ソフト会社)という意見もある。

 特にコスト面でユーザー企業は厳しい。「ユーザー企業の購買姿勢が二極化してきた。パソコンやパッケージなど値段だけで判断できるものは大企業でもネット購買を含め、とにかく安く買う。基幹業務システムや導入後のサポートが必要なものは、総合力や過去の実績が優先される。以前と異なり、ユーザー企業を固定化することが非常に難しくなってきている」(販売会社)。

 「増収増益は見込めるものの、ITサービス業界全体としては緩やかな回復基調だと推測している。その基調にあってどれだけ攻めの経営ができるかが勝負であり、チャンスだと思う」(ソフト会社)という意見や、「全体的には明るさが戻ってきつつあるが、勝ち組と負け組みの差はハッキリしてきた」(販売会社)と見る回答もある。

ソフト会社が全体を押し上げる

 実際、全体が回復基調になっても、ITサービス業界のすべての企業の業績が上向いているとは限らない。ITサービス業界をハード/ソフトなど商品販売が主体の「販売会社(販社)」と、ソフト/サービスなどの開発・提供が主体の「ソフト会社」に分けた場合、業況の各種指標は大きく異なる。

 図2[拡大表示]は、ソフト会社や販売会社など業態別に見た業況DIの推移である。これを見ると、ITサービス業界全体の業況DIが前回のマイナス1からプラス5に転じても、販売会社の業況DIは前回の15から今回は14と横ばいである。反対にソフト会社は前回のマイナス10から今回はプラス2と増えており、2004年3~6月期のITサービス業界の回復基調の理由はソフト会社の伸びに起因していることが分かる。

調査の概要

 「ITサービス業の業況調査」は、企業向けIT市場の景気動向のすう勢を把握することを目的に、本誌が四半期ごとに実施しているアンケート形式の調査。今回は2004年6月上旬に上場しているシステムインテグレータやディーラー、それらに準じる会社など計134社に対しアンケートを依頼し、91社から回答を得た。このうち、ソフトハウスや保守・サービス会社などサービス販売を主体とする「ソフト会社」が62社で、コンピュータ商社やディストリビュータなど製品販売を主体とする「販売会社」が29社だった。

 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている指標。本調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。


大山 繁樹