今年も『CIOの直言』をお届けする。昨年6月、本誌新装刊に合わせた大型特集『CIOの直言――こんな提案を待っている』を企画し、IT先進企業のCIO(最高情報責任者)にソリューションプロバイダへの期待を大いに語ってもらった。あれから1年。IT投資意欲の低迷、ITデフレの進行という最悪の時期を抜け、多くのユーザーで攻めのIT投資の再開を見込めるところまで来た。この間、ソリューションプロバイダの提案に進歩はあったのか? 答えは否。自らが思うソリューション提案の理想像自体が、実はユーザーが求めるものと乖離している。まずは“直言”に耳を傾けてほしい。

 「私は情報システムの仕事に長くかかわってきたが、ソリューションプロバイダとか、ITベンダー、ITコンサルタントには本当にがっかりしている。なんて進歩のない業界なのだろうと思う」―。JTBでCIO(最高情報責任者)を務める佐藤正史取締役のITサービス業界に対する見方は手厳しい。

 ダンのCIOである丸川博雄常務取締役も首をひねる。同社は、IT活用などにより靴下の中小卸から専門店をフランチャイズ展開する優良企業に飛躍を遂げたが、「最近、ITベンダーから打てば響くような提案が出なくなった」という。「顧客やモノ作りのために日々変わり続けている」ユーザー企業とソリューションプロバイダの間に距離が広がりつつあるというのだ。

 多くのソリューションプロバイダが課題の解決策、つまり真の意味でのソリューションを提供すべく、懸命に努力しているのは事実だ。しかし、依然としてユーザー企業の評価は厳しい。ソリューション提案ができていないだけでなく、実は、目指すべきソリューション提案の方向自体が間違っているのではないか―CIOなどへのインタビューの結果、そうした疑問が浮かび上がってきた。

ユーザーは変わる、あなた方は?

 今回の特集でも昨年同様、CIOなど情報システムの責任者に取材するとともに、上場企業を中心にアンケート調査を実施し、106社のCIOから回答を得た。やはり今年度は景気回復の中、ユーザー企業の多くがIT投資に動く。「前年度よりIT投資を増やす」とするCIOは、前回に比べ9.2ポイント増え全体の42.5%に達した。そして優先する投資分野は「IT資産の見直し」のための投資。投資余力が生まれた機をとらえ、コスト構造などシステムを抜本的に見直そうというわけだ。

 一方、ソリューションプロバイダに対しては「取引関係の見直し」に言及するCIOは、28.3%と前回調査に比べて8.2ポイント減少した。IT投資に動き出すために「とりあえず現行体制を維持しよう」との判断に読める。しかし、気を緩めてはいけない。オリックスでIT推進室を管掌する福島晃常務執行役は「長い付き合いの企業だけでなく、新しいソリューションを提供してくれそうな企業に積極的に声を掛けており、要望を理解してもらえない企業への発注は減っている」と話す。

 オリックスは昨年度から、ITインフラの再構築に乗り出している。その中で、以前より具体的な形でRFP(提案依頼書)を出し、“打てば響く”提案を返したソリューションプロバイダへ実績にかかわりなく仕事を出すようにしたという。この打てば響く提案こそ、ユーザー企業が最も期待することであり、逆にそれが出てこないことがソリューションプロバイダへの不満の根源である。

 今回の取材では、前回以上にCIOから「我々自身が変わろうとしている」との言葉を聞いた。しかも、「最近、定期的にIT戦略に関する、ソリューションプロバイダ向けの説明会を開くようにした」と、損害保険ジャパンの望月純執行役員事務・IT企画部長が語るように、ユーザー企業の多くはその“変化”をソリューションプロバイダに説明しようとしている。

 しかし、ソリューションプロバイダには“響かない”のだ。ユーザー企業が中堅・中小なら、ソリューションプロバイダの担当者が定期的に代わる。大企業が顧客でも、優秀な人材を新規開拓に回したいソリューションプロバイダの事情が優先される。新任の担当者は、ユーザー企業のシステム化の歴史や今後の方向性を一から学ばねばならず、そのことがユーザー企業のニーズにマッチした提案を困難にしている。

(佐竹 三江、木村 岳史)