「株式を取得したわけではないが、実態は米マイクロソフトによる米サン・マイクロシステムズの買収のようなもの。サンのスコット・マクニーリ氏は恥も外聞もかなぐり捨て、企業の存続をマイクロソフトに委ねた」。IT産業アナリストであるデジタル産業研究所の古谷隆一主幹は、マイクロソフトとサンが4月2日に共同発表した和解・提携を、こう分析する。

 米ストレージ関連ベンダーの日本法人社長も、この見方を支持する。同氏は3月末に米本社で行われた役員会での1コマを鮮明に思い出したという。同社に出資するシリコンバレーの老練なベンチャーキャピタリストが「あなたたちはこうなりたいのか」とテーブルをたたき、太陽が地平線に沈む絵を見せたのだ。そして「これが生きる道」と、今度は米アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズ氏がWindowsと書いてあるキーボードを嬉しそうにたたいているPowerPointを見せた。

 1997年、マイクロソフトはアップルとの特許紛争の和解で、苦境にあったアップルに1億5000万ドルを出資し、MacOS向けの各種ソフトや開発ツールを引き続き提供することを約束。ライバルの存続を助けた。だが現在、アップルをマイクロソフトのライバルだと見る人はいない。

 マイクロソフトは今回、2件の訴訟の和解で16億ドル、ロイヤルティーの前払いで3億5000万ドル、それに「(サンのマイクロソフトへの)協力度合いによるが4億5000万ドルの追加払いの可能性がある」(マクニーリ氏)として、合計24億ドル(約2500億円)をサンに払う。「ジャンク債企業となったサンの買収額としては妥当かもしれない。これでサンは米シスコシステムズや富士通、日立製作所などに買収される可能性が消えた。買収の噂を気にしてきたマクニーリ氏は来る6月期、マイクロソフトからの支払いで3年ぶりの黒字化にメドをつけた」(古谷主幹)。

 和解・提携直前のサンには、悪い知らせばかりがつきまとってきた。米スタンダード&プアーズは3月5日、収益性の先行き不透明を理由に、サンの負債格付けをジャンク債に引き下げた。その結果、サンの株価は16%も急落。マイクロソフトとの和解で20%回復したものの、イーブンに戻しただけだ。さらに、暗いニュースは積み重なる。米ガートナーは2月の調査で、サンの2003年のサーバー売上高が15%減少したと報告。米メリルリンチが1月末に実施したCIO(最高情報責任者)への調査では、CIOの何と65%がサンの好転を信じていないことが明らかにされていた。

 これらの悪い知らせを一掃するのが電撃的なマイクロソフトとの和解・提携。エイプリルフールの翌日を選び「ジョークではない」と強調した。しかし、古谷主幹によれば「これでサンはマイクロソフトのコントロール下に入り、勝手なことはできなくなった」。今後、米インテルや米AMDのチップ搭載サーバーにWindowsを組み合わせた製品中心にサーバー事業を展開するだろう。ガートナージャパンの亦賀忠明主席アナリストは「サンのDNAはIAやOpteronを始めた頃から変化し、既に突っ張るものをなくしていた」とし、サンとマイクロソフトの提携に違和感がないとする。「マイクロソフトにとってサンはもはや敵でも何でもない」(亦賀氏)。

 さらに古谷主幹は「SPARC/Solarisの将来の芽も危うくなった」と、大再編劇の幕開けを予想する。米HP(ヒューレット・パッカード)も苦境の状況は変わらない。HPの最大の問題は、売り上げの3割を占めるプリンター事業が営業利益の74%も稼ぐ、いびつな収益構造が改善しないことだ。株主からは、かつて計測機事業を切り離したように「HPはプリンター事業以外を切り離せ」という厳しい声も出る。同社は5月にサーバーとサービス事業を統合した新体制で巻き返しを図るが、その結果次第では、株主の意見に引きずられる可能性は残る。

 こうして業界は徐々に、Javaの生殺与奪の権を握ることになると見られるマイクロソフトと、収益構造をサービスからソフトにシフトしつつあるIBMの頂上決戦を迎える。

(北川 賢一=主席編集委員)