鈴木が担当する通信事業者(キャリア)向けネットワーク機器の販売は、日立電線が社運を賭ける事業の1つ。今でこそ鈴木は、社内外ともに認める同事業部の立役者の一人だが、これまでの約3年間を鈴木は「目に見える成果がなかなか出ない不遇の時代だった」と打ち明ける。
日立電線が広域イーサネットなどの新しい通信サービスを実現するためのキャリア向けLANスイッチ市場に参入したのは2000年のこと。展示会などでは評判を呼んだものの、受注には至らなかった。新規参入のため顧客の信頼が低かっただけでなく「君たちの営業は間違っている。他のベンダーのほうが良くやってくれる」と、仕事のやり方そのものを否定されもした。
そんな中で鈴木が気付いたのは、顧客との“キャッチボール”の重要性。「顧客は本当のニーズを教えてはくれない」からだ。自らの提案も、単に売り込むのではなく、それを通して顧客ニーズを探り出すことに重点を置く。提案しても、なかなか返事を返してくれない顧客には「顧客が何を求めているかを再考し、別の角度から再提案する」など、アプローチにも知恵を絞るようになった。
加えて、社内への“営業活動”も意識し始めた。具体的には、顧客に新しい通信サービスを支えるためのネットワーク像を提案すると同時に、社内の開発部門に対しては、提案内容を実現するための機器の改良や開発を働きかけた。
ただ、ここで開発部門から「できない」と言われれば顧客を裏切りかねない。そのリスクを避けるため、提案を練る際は、限りある社内の開発リソースを慎重に吟味したし、デモ環境やトライアルサービスの仕組みの構築など、小規模な案件も積極的に受注した。その過程で得た情報の断片をつなぎ合わせることが、本当の顧客ニーズを発見する糧にもなる。
顧客の反応を探りながら、再提案を繰り返した鈴木の営業手法は2003年になって結実し始めた。NTTグループやKDDIなどの大手キャリアから新サービスのための仕組みとしての採用が相次いでいる。
鈴木 亮介(すずき りょうすけ)氏 |