「鞄も持たずに顧客を訪問することもある」。こう語る宮原の鞄の中身は、B5ノートとボールペン、携帯電話、目薬だけと、いたってシンプルだ。中でも「ペンとノートが最も重要な営業ツールだ」。目薬を常備しているのは、目がよく充血するからで「顧客に余計な気を使わせない」ためには欠かせない。

 最近、営業担当者が携帯することが珍しくなくなったノートパソコンも、宮原は持ち歩かない。会社が情報漏洩防止対策の一環としてノートパソコンを無許可で持ち出すことを禁止していることもあるが「そもそも客先を訪問するのにノートパソコンは必要ない」と宮原は考える。パッケージ商品を売り込みに行くわけではないのだから、あらかじめ用意したプレゼンテーションツールを携えても意味がないためだ。

 その宮原が営業活動で特に力を入れているのは、顧客が話せる時間をできるだけ長く取ること。例えば、金融機関の商談相手は多忙なことが多く、10分しか面談できないことも珍しくない。短い時間の打ち合わせで顧客の要望を聞き出すため「自分から余計な話をすることは極力、避けている」。この間はメモすら取らない。1分、1秒が真剣勝負だからだ。

 B5ノートとボールペンの出番は、顧客との打ち合わせが終わってオフィスを出てから。今聞いた話の内容を忘れないよう、すぐさま面談内容をメモにする。こうしたメモから顧客が抱えている課題を整理することで、次回に提案する際のポイントを練り上げる。アイネスは2003年2月、日本IBMと共同でプルデンシャル生命から80億円弱のアウトソーシング案件を受注した。宮原は同案件の立役者だが、このときも「ペンとB5ノートを手に何度も客先を訪問した」。

 今でこそ営業の最前線を飛び回る宮原だが、最初は技術職への配属だった。入社13年目に故郷、福岡で営業を担当することになったものの「最初の1年間ほどは、まったく仕事がとれなかった」と打ち明ける。転機になったのは、客先を回っていて、たまたま受注できたパソコン10台の案件。金額で500万円だったが「初めてもらった注文が、うれしかった」。その興奮が今も忘れられないでいる。

宮原 洋司(みやはら ようじ)氏

アイネス 営業本部金融営業部課長
1963年10月、福岡県生まれ。84年4月アイネス入社。金融機関向けシステムの開発を経て、96年から福岡支社で営業課長となり地方自治体の営業を担当。2002年4月から現職。実家のある福岡県に帰省した際には、海釣りをするのが楽しみで、釣った魚を自分で調理することもある。


文中敬称略=(中井)