「とにかく貧乏性。少しでも手が空いている自分が許せない」。岩井は自他ともに認める電話魔だ。ちょっとでも時間があれば電話に手が伸びる。開口一番「今、何やってんのー?」。親しいとはいえ、顧客に対してもこんな調子で会話ができることが岩井流。「隠すものは何もない。“仲間”として胸襟を開き、何でも尋ね教えてもらう」と言う。

 岩井が「これがなければ仕事にならない」というのは手帳と名刺入れ。名刺入れはいつもパンパンだ。この3月から東京勤務になり、名刺ファイルが神戸と東京に分かれたことからPDA(携帯情報端末)にもデータを入力するが、これは単なる「安心感」。実際は、オフィスに電話して連絡先を調べてもらうことが多い。そのため、だれでもすぐ探せるようファイルの背表紙には大きく「名刺」と書いた。

 この“電話”ネットワークが生きる場面の一つが顧客ターゲットの選別。ユーザー企業の業績や事業戦略、コベルコの得意分野との相性などを「戦略的に“ドライ”に考えて絞り込む」。もう一つは、提案を練るための情報収集。製品評価などを提案中の顧客の競合他社に聞くこともある。

 入社から6年間、岩井はメインフレーム用の課金管理ソフトを開発してきた。複数の利用部署に使用量に応じた料金を算出し請求するためのソフトで、利用部門の利害が絡むだけに各部署との調整に走ることも多かった。そこで気付いたのが、効率化を追求するITと、その仕組みを利用するエンドユーザーの気持ちの間を埋めることの大切さ。この感覚はコールセンター営業の経験で、より強まった。「顧客の経営者もITに効率化だけを求めるわけではない。利用現場の悲哀を伝えられるのが強み。提案内容も“ウエット”になっていく」。

 技術者から営業に転じた岩井だが、今も「基本は変わらない」と言う。プログラム開発が顧客との共同作業であるように、提案書を顧客と一緒に作っているからだ。「顧客も上司に提案しなければならない立場にある。“りん議書”になる提案書を一緒に作りましょう」と持ち掛ける。「顧客も楽しくなければ、ストレスがたまるだけだから」と、今日も豪快に笑う。

岩井 敏彦(いわい としひこ)氏

コベルコシステム ソリューション事業部SAP本部 営業グループ課長
1968年生まれ。92年コベルコシステム入社、メインフレーム用課金管理ソフトの開発・導入を手がける。98年、同社初の営業組織、ネットワークシステム本部システム技術営業部営業室に異動。2003年から独SAP製品を担当し、2004年3月から東京市場を開拓するため単身赴任の身に。休日は「とにかく、がーっと寝て」過ごす。


文中敬称略=(佐竹)