IP電話が、中堅・中小企業向け商談の“キラーソリューション”に台頭してきた。中堅・中小企業にならばきっちりと通信コストの削減を提案できる上に、ITサービスと組み合わせたソリューションを提供できる余地が大きいからだ。その有力な提案手法が、まず通信で「目に見えるコスト削減」を提案し、新たなIT投資で生産性向上を図るといった「目に見えないコスト削減」を呼びかけること。こうした提案力と顧客基盤を求めて、通信事業者や通信機器メーカーもソリューションプロバイダの力を求めている。2004年に、IP電話は新たなIT投資を喚起する切り札になる。

 2004年は中堅・中小企業にこそIP電話が売れる――。

 今、その勢いを具現化しているサービスがある。通信系販社のフォーバルが提供するIP電話サービス「FTフォン」だ。全国展開に先んじて、2003年夏から東京都など一部地域で販売したところ、わずか3カ月で約2000社の中小企業から契約を獲得した。

 FTフォンは、既存ユーザーのリプレース案件だけで数が伸びているのではない。大久保秀夫社長は「顧客の6割が新規だ」と、その実績に満足げだ。電話販売のプロ集団でさえ未開拓だったユーザーをFTフォンが切り開いた格好だ。

 リコー子会社のソリューションプロバイダであるリコーテクノシステムズも威勢がいい。同社は1月末に「NETBegin IP電話」など2サービスを投入。その名前の通り、狙うのは満足なネットワーク環境さえ持たない中小企業だ。「1年で6000社の獲得が目標だが、上方修正が必要かもしれない。そのくらいユーザーからの反応がよい」と、販売を担当するリコーの飯沼義昭ソリューションマーケティングセンターITサービス推進室長は、手応えを語る。

中堅・中小にこそコスト削減効果

 この2社に限らず、IP電話に取り組む関係者の多くは「関心は企業の大小を問わず高い。しかし実際に売りやすいのは中堅・中小企業」と口をそろえる。理由は簡単。IP電話によるコスト削減効果は、大企業より中堅・中小企業で生きるからだ。

 中堅・中小企業は、電話の通話割引サービスの恩恵をあまり受けてこなかった。大企業向けでは、通信事業者が水面下で大口割引の料金表さえ無視した値引き競争を繰り広げているのとは対照的だ。「全国一律3分8円」といったIP電話の低料金は、中堅・中小企業にこそ魅力に映る。

 2003年には、東京ガスやUFJ銀行、コニカミノルタホールディングスなど大企業のIP電話導入が注目を集めた。しかし、そうした事例は「コスト削減が遅れていた業種か、本社の新ビル移転を機に内線電話を刷新した企業がほとんど」(ある通信機器メーカー)。PBXを撤去して内線電話をIP化しても、大企業ではたいしたコスト削減にならない例は多い。コスト削減を切り口にした大企業へのIP電話提案は、まだまだ難易度が高いのが実情だ。

 中堅・中小企業には、IP電話と絡めたITのソリューションを提案しやすい下地もある。「経営層へのトップ営業でしっかりと通信コストの削減策を提案できれば、グループウエアやWeb会議など新しい投資を喚起できる」とNECの石原伸一インテグレーション・サービス事業部第二プロダクト・サービス部マネージャは指摘する。沖電気工業の篠塚勝正社長も「IP電話とITを融合させた製品やサービスの需要は、中堅・中小企業のほうが早く立ち上がる。大企業向けは3年くらいかかるのではないか」と見る。

SIerと通信業界の協業が加速

 通信事業者や通信機器メーカーからソリューションプロバイダに対して、IP電話で協業の働きかけも活発になってきた。

 例えば、IP電話専門の通信事業者であるフュージョン・コミュニケーションズは「ソリューションプロバイダとは、利益を共有する関係を築きたい」(平山義明営業本部ソリューション営業部長)と熱烈なラブコールを送る。2004年春までに「ソリューション・パートナー」と呼ぶ提携先を、現在の約10社から30~40社に広げる。ずばり中堅・中小企業開拓のためだ。

 その新パートナーの1社が大塚商会。フュージョンが卸売りするIP電話サービスを使い、中小企業向けの「αWebフォン」を4月から始める。本格的な自社ブランドでは初めてのIP電話サービスだ。実は、冒頭のリコーテクノもフュージョンのパートナーとしてサービスを始める。

 「通信事業者の中で、最も自己完結のビジネスが多い」と言われるNTTコミュニケーションズも、ソリューションプロバイダとの協業を強化しつつある。2003年9月に「ビジネスパートナー営業部」を設け、直販だけでなくサービスの卸売り事業にも力を入れ始めた。中小企業層の開拓に向け「バリュー・パートナー」「バリュー・アドバイザー」と呼ぶソリューションプロバイダの組織化に取り組んでいる。

 ほかにもインターネット接続のフリービットやモーラネットなどがソリューションプロバイダとの提携戦略を進めている。

=文中敬称略=(玄 忠雄)