「寝ている子を起こすな」と、及び腰だったメインフレームメーカーが、 レガシーマイグレーションに積極的な姿勢を見せ始めた。 「単なる移行に利益なし」と達観するメーカーも、市場の変化には逆らえない。

 2004年の1月と4月、自動車業界とビール業界のそれぞれで、ビッグネームのメーカーが基幹業務をメインフレームからオープンシステムへの、いわゆる「レガシーマイグレーション」を敢行し、本番稼働に入る予定だ。

 自動車メーカーはIBM(CICS、IMS)とNEC(ACOS4)のメインフレームを、ビール大手は富士通の大型メインフレーム(MSP)をそれぞれリプレースする。

 特にビール大手が予定通り4月にカットオーバーにこぎ着けた場合、これがレガシーマイグレーションの1つのひな型になるのは間違いない。低コストかつ短期間の移行成功例になるからだ。

 同ケースの特徴は(1)対象が全国の卸店を結ぶ全国オンラインで、端末数が2000台を超える大規模なシステムである、(2)2003年10月の作業開始から、わずか半年の移行期間で約4000本の既存COBOL資産を生かしながらUNIXサーバーに移行する、(3)メインフレームメーカーではなくソリューションプロバイダが受注しレガシーマイグレーションを実施している、などだ。

 レガシーマイグレーションに対し保守的で慎重な姿勢を堅持しているものの、心の底では何とかしたいと考えている多くの大企業のIT部門に影響を及ぼすとみられる。同時に、大がかりな経営コンサルティングにまで持ち込み、受注金額がかさむシステム再構築に誘導したがる大手メーカーの思惑にも影響を与えずにはおかないだろう。

4000システムの“本丸”が残る

 現在、ユーザー先で稼働している大型メインフレームの多くは、ビジネスモデルに大きな変更の必要がないものの、がんじがらめでメンテナンスに手間がかかる状態だ。富士通の坂下善隆ソフト・サービス共通技術センター長によると「残っているのは、移行期間やそれに掛かるコスト、信頼性を勘案したらオープン化する必要のない本丸業務だけ。システムを再構築すれば『500万~1000万ステップで数十億円』という、とてつもなく費用が掛かるシステムばかりだ」。

 そこではERP(統合基幹業務システム)ソフトに移行できるケースはほとんど終わっており、パッケージで救うことも難しい。そんなシステムが相当数、滞留している。業界の推定では、大型メインフレームは4000システムを下らない。

 しかし、そうした吹きだまり状態にある基幹業務システムをオープンシステムに移行させることで「浮いた運用費用を新規の戦略IT投資に回したい」と考える企業ユーザーは少なくない。

 これまで半ばIT部門の専横を許してきた経営者も、投資に対する経済的リターンを重視する姿勢に変わり始めている。チェックも厳しくなってきた。勢い「アプリケーションを修正せず、プラットホームだけを低コストにしたいという要求が増えている。単なる“リホスト”でも確実にハード関連コストは40~50%下がる」(富士通の坂下センター長)からだ。

 あるメーカーのベテラン営業担当者は「プラットホーム交換によるレガシーマイグレーションで運用コストを4割下げ、1割はユーザーの節約分として還元し、残り3割を再投資に回してもらう。これがベストケース」だと話す。

ユーザーの選択は楽なリホスト

 冒頭のビール大手や自動車メーカーのレガシーマイグレーション例は、ユーザー企業の期待にもIT業界の皮算用にも合致する。いずれも、既存資産を移行させる「リホスト」を選択しているからだ。

 これまで、レガシーマイグレーションといえば、多大なコストを投入してシステムを再構築する「リビルド」や、プログラムのコンバージョンと部分的な書き換えによる「リホストもどき」など、移行期間も移行コストも楽ではない方法が主流だった。

(北川 賢一)