クライアント環境を狙うLinux製品が今夏から、相次いで発売されている。セキュリティ対策やTCO(所有総コスト)削減をキーワードに、 Windows代替を狙う。本誌独自調査では、既に半数近い案件で、 クライアントLinuxが採用候補に挙がっていることが分かった。

図1●クライアントLinuxを有望視するソリューションプロバイダが4割弱に
「Windows優位の市場構造は不変」とする回答は1割未満しかない
 ソリューションプロバイダがクライアント市場においてもLinuxを有力な商材だと見始めている。本誌が2003年10月上旬に、有力ソリューションプロバイダの営業/マーケティング担当者211人を対象にクライアントLinuxに関するアンケート調査を実施したところ「商材として有望、Windowsの代替にもなり得る」との回答が37.2%(回答数78人、有効回答率37%)にも上った(図1[拡大表示])。

 最も多かったのは、やはり「需要はあっても、Windowsの代替になる可能性は小さい」との回答で57.7 %を占めた。だが「商材としての魅力に欠け、今後もWindows優位の市場構造は不変」と見る向きは5.1%にとどまった。

WebがOS不問を加速

 ソリューションプロバイダの期待に応えるかのように、クライアント用をうたうLinux製品の発売が相次いでいる。今年8月にエッジがLindowsOS(米リンドウズ・コム製)を発売したのに続き、10月にはターボリナックスがTurbolinux 10 Desktopを、米レッドハットはRed Hat Enterprise Linux WSをそれぞれ発売した。米サン・マイクロシステムズ日本法人も、2004年前半をメドにJava Desktop Systemを発売する計画だ。

 ベンダーやソリューションプロバイダがクライアントLinuxを担ぐ理由は主に(1)価格の安さ、(2)セキュリティ対策の二つだ。クライアントLinux製品の価格は、ワープロや表計算などのオフィスツール込みで1ライセンス当たり1万~3万円台。これに対して、マイクロソフトのWindows XP Professional版は3万5800円(1ライセンス当たりの推定小売価格)。Office Standard Edition 2003の4万5800円(同)を加えれば8万円強になる。

 価格が安い商材は、ソリューションプロバイダの売り上げと利益を圧迫する。だが、SRAの杉田義明Linuxオープンソース事業推進部副部長は「それでも魅力は大きい」と話す。「クライアント側のコスト削減が、サーバー側の業務アプリケーション強化の提案につながる」(同)からだ。

 一方のセキュリティ面では、Windowsの脆弱性をターゲットにしたワームやウイルスによる被害が大規模化、頻発化していることがクライアントLinuxの存在価値を押し上げている。クライアント環境の運用管理負荷の軽減を強調するために、シンクライアント環境への移行と併せた提案も復活し始めた。

 シンクライアント派の急先鋒がサン。すべてのクライアント環境をサーバー側で集中管理し、ICカードを使ってどこからでも一人ひとりのデスクトップ環境を起動できるSun Ray Desktopの提案に再度、注力する。増月孝信プロダクト・マーケティング本部ソフトウェア製品事業部長は「集中管理により、セキュリティの確保と、運用管理にかかる負荷とコストの削減を両立できる」と意気込む。

 クライアントLinuxが注目を集めている背景を、Linuxを使ったシステム構築に詳しいテンアートニ(東京都千代田区)の喜多伸夫社長は「基幹業務システムがクライアントサーバー型からWeb型への移行が進んでいるため」と説明する。「業務を遂行するためのクライアント環境は、ブラウザーさえあれば十分になる」(同)からだ。アプリケーションのWeb化が進めば進むほど「クライアントOSは、WindowsでもLinuxでもよい」との見方が一般化することになる。

(中井 奨)