やはりと言うか、またまたと言うべきか。米オラクルのプライベートショーOracleWorldに登場するたびに新しい玉を投げてきたラリー・エリソン会長が今度は「大型コンピュータの開発競争は、遂に終わりを告げる」と、情報システムの新トレンドを宣言。巨大サーバー開発に大金を投じるメーカーに冷水を浴びせた。

 1964年にIBMシステム/360が登場して以降、業界では米アムダールや富士通、日立製作所などが大型メインフレーム開発でしのぎを削った。サーバー時代が到来してからは、米サン・マイクロシステムズや米HP(ヒューレット・パッカード)を巻き込み、100個以上ものプロセッサを搭載するサーバー開発競争を繰り広げてきた。その激動の大型機開発の歴史を、エリソン氏は「オラクルの最新データベースOracle 10gとグリッド管理ソフト群がオルタナティブを提供する」と一蹴したのだ。そして返す刀で「今頃Windowsメインフレームに進出する米マイクロソフトは、間違ってIBM博物館から情報を得たに違いない」と“口撃”した。

 エリソン氏の主張によると、これからはOracle 10gと統合グリッドインフラ、およびコモディティ(日用品)と化したIAサーバー、そしてLinuxの組み合わせが、企業の情報やアプリケーションを管理するための、より柔軟でコスト効率が高い方法になる。グリッドコンピューティングなら、従来の大型データベースを働かせるのに必要な高価なSMP(対称型マルチプロセッサ)システムを、ブレードサーバーに代表される低価格サーバーを複数台つなぐことで実現できるという。エリソン氏はグリッドが「予算の見直しを余儀なくされ、少ないコストで高い水準のサービス提供を求められている大企業のIT部門に魅力的なソリューションになる」と期待する。

 しかし業界内には「オラクルが言うグリッドは2002年に出荷したOracle 9i向けRAC(リアル・アプリケーション・クラスタ)を一歩進めたもの。厳密にはグリッドではない」との指摘もある。確かに、米IBMなどが学術的コミュニティと共同開発するグリッドは、例えば地球外知性探査(SETI)に世界中のパソコン466万台の余剰パワーを利用するなど、不特定多数の管理されていないコンピュータのネットワーキング技術だ。

 オラクルは自社グリッドを、それら学術・科学分野で利用されているグリッドと区別するためにエンタープライズグリッドと呼ぶ。企業が導入するOracle管理下にある物理的に近いサーバーやストレージだけが対象で、それらを仮想化して使う。業務ごとにサーバーを置き、ピークに備えて過剰なパワーを所有してきた企業ユーザーが抱えるIT投資効率の悪さへの悩みを解決するのが狙いの一つだ。今やIBMが所有する言葉となったオンデマンドやユーティリティコンピューティングへの追従を嫌い、それらをオラクル流に言い換えたものだと見れば分かりやすい。

 定義はともかく、米調査会社のガートナーは「2007年までには、グリッドとクラスタは同じテクノロジを指すようになる」と予測する。オラクルの狙いは、グリッドという学術・科学分野の効率的な手法を、独SAPや米シーベルらが提供する日常のアプリケーション処理の世界に引きずりおろし、IBMなどが先行するグリッド分野で、リーダーシップを奪うことだ。

 エリソン氏の発言でもう一つ重要なことは「ラックマウント型IAサーバー+Linux+10g」の組み合わせが、今後の基幹系構築における一押しソリューションとした点だ。サンやHPのUNIXサーバーは既にレガシーの扱いである。エリソン氏は「SMPはすぐにはなくならない」と言い添えたものの、今後は「デル+オラクル+レッドハット」が王道だと言いたげだ。米フェデックスエキスプレスがその組み合わせで基幹系を再構築中だという。

 エリソン氏の見方は、ITがコモディティ化するというドライな確信に基づくもの。90年代をカテゴリーキラーとして牛耳ったテクノロジリーダーたちの凋落の予言でもある。

(北川 賢一=主席編集委員)