情報漏洩(えい)の事件・事故が後を絶たない。それに伴い、情報漏洩防止のソリューションに対する関心が高まっている。フォレンジックサーバーなど製品も充実してきた。ソリューションプロバイダにとってはビジネスチャンスだ。

 信販大手のアプラスは8月、会員7万9000人分の個人情報が流出したことを発表した。7万9000人に対して詫びの品を同封した書状を送付したことに加え、9月には杉山淳二社長らの減給処分を決定した。流出源が情報処理業務の委託先のTISである可能性が高いことが判明。TISは9月、船木隆夫社長をはじめとした役員5人を減給すると発表した(118ページ参照)。

 この約1カ月前、ローソンもアプラスと同様の顧客情報流出事件を引き起こしている。56万人の会員情報が流出し、ローソンは500円分の商品券と詫び状を送付するとともに、新波剛史社長をはじめ経営陣の減給処分を発表した。この事件も、情報システムの開発・運用を請け負っていたアイ・ティ・フロンティアが引き起こしたとされる。同社も日和崎一郎会長ら経営陣を減給した。ただし、アイ・ティ・フロンティアは「捜査中であるためノーコメント」(広報部)としている。

 ローソンに限らず、情報漏洩事件が後を絶たない。1999年に発生し、裁判沙汰になった宇治市のケースでは原告1人に付き1万5000円の支払いが命じられた。仮にローソンが会員1人当たり1万5000円ずつを支払うとしたら、損害額は84億円に達する。情報漏洩によるリスクは看過できないものになってきた。

 個人情報流出事件が相次ぐなかで、情報漏洩を防止するためのソリューションに対する関心が急速に高まっている。「情報流出問題などが発覚するごとに情報漏洩防止関連製品の売り上げが跳ね上がる」と大塚商会マーケティング本部テクニカル販売促進部インフラ販促グループの矢島純也スペシャリスト。セキュリティ関連全体の売り上げは2003年12月期には75億円に達し、情報漏洩関連製品は対前期比で50%増える見込み。

従業員の“行動”を丸ごと記録

 それにしても、なぜ情報漏洩事件が急増しているのか。セキュリティ関連ソフトの開発・販売をしているクオリティ(東京都千代田区)のマーケティング本部長である飯島邦夫取締役は「情報漏洩防止ソリューションに対する関心が高まっている要因の一つに人材の流動化がある」と話す。

 終身雇用が崩れ、派遣社員やアルバイトが重要な情報に接する機会が増えてきたが、派遣社員やアルバイトの中には会社への帰属意識が低い人も少なくない。従業員にどこまで情報を公開すべきかの判断が難しくなるなか、従業員がどのような情報をやり取りしているか把握しようとする動きが企業に広がりつつある。

 「フォレンジックサーバー」は、その動きを象徴する製品。ネットワークに流れる膨大な情報を巨大なハードディスクに丸ごと記録する専用のサーバーだ。フォレンジックとは、法廷で利用するという意味。2002年2月からフォレンジックサーバー「MSIESER」を発売している菱洋エレクトロのシステム情報機器営業第2本部長の柏原兵五郎執行役員は「企業経営者の多くは、現状を把握したいと考えている。どの社員が何をしたのか操作記録を残すことで、問題が発生した時に備えて証拠を保存しておこうと考え始めた」と話す。

 菱洋エレクトロは2004年1月までに100台、2005年1月までに200台販売する目標を掲げる。1台当たりの平均価格は600万~700万円だから、2004年1月までの売り上げは6億~7億円になる見込み。

 フォレンジックサーバーを売り込むのは菱洋エレクトロだけではない。日本ネットワークアソシエイツは今年6月、「Infini Stream Security Forensics」を発売した。様々な通信プロトコルを記録できることを武器に先行メーカーを追撃する。「2004年5月までの1年間で100台を販売するのが目標」(マーケティング本部Snifferマーケティング部の田中雅彦部長)。売上高は少なくとも15億円を見込む。

 フォレンジックサーバーと同じようにネットワーク上の情報を収集・記録するネットワーク監視ソフトの人気も高まっている。エムオーテックス(大阪市淀川区)が販売する「LanScopeCat3」はその一つ。ネットワーク監視システムの草分け的存在として知られており、2002年に約20万ライセンスを出荷した。2004年5月までの1年間で、40万ライセンスの販売を目指す。

(渡辺 一正)