通信事業者だけでなく、ITサービス会社も続々とIP電話ビジネスに参入する中、去就が注目されていたNTT東日本とNTT西日本が、ついに10月から企業向けIP電話サービスを開始する。電話のIP化、コンピュータのアプリケーション化の流れは決定的になり、IP電話はソリューションビジネスにとって不可欠の商材となりつつある。

 ITサービス会社にとって“朗報”となるユーザー企業の動きも出てきた。「最近、大企業とのIP電話の商談では、安いだけの提案はりん議が通らなくなった。IP電話と業務システムとの連携を盛り込んだRFP(提案依頼書)を受け取る機会も増えた」とNTTコミュニケーションズ(NTTコム)ブロードバンドIP事業部の高瀬哲哉マーケティング部長は指摘する。

 実際、三菱商事は今年5月に新設した品川オフィス(東京・品川)に導入した900台のIP電話に、ソフトフォン*(p.47に用語解説、*は以下同様)を採用し、ノーツなどとも組み合わせたコミュニケーションシステムを構築した。東京ガス子会社のティージー情報ネットワークも7月、ノートPCにソフトフォンを組み込むことで、社員が“電話”を持ち運べるようにしている。もちろん、こうした事例はまだ少数だが、ソリューションプロバイダにとってはビジネスが広がる可能性を示唆する事例といえる。

3種類あるIP電話ビジネス

図1●ユーザー企業がIP電話を導入する際の三つのパターン
ユーザー企業が自前のIP電話システムを導入する場合は、IT系のソリューションプロバイダにも大きなビジネスチャンスがある

 企業向けのIP電話ビジネスは、大きく三つの形態がある(図1[拡大表示])。一つ目がIPセントレックス*で、IP電話の交換機能を提供するネットワークサービスだ。NTTコムやKDDI、日本テレコム、フュージョン・コミュニケーションズといったテレコム会社に加え、富士通やNEC、NTT-MEなどが、いわゆる「第二種電気通信事業者」としてサービスを提供している。

 二つ目は、PBX(構内交換機)にIP電話への対応機能を持たせたIP-PBX*の導入だ。償却の終わったPBXから段階的に置き換えられる。三菱商事をはじめ多くユーザー事例がこの形態だ。通信機器メーカーや通信工事会社など、PBXを扱ってきたベンダーが中心のビジネスだが、NECフィールディングのように新規参入の例もある。

 もう一つが、シスコシステムズなどのVoIP*ソリューションを使って、PBXなど既存の電話施設をサーバーやルーターから成るシステムにリプレースするビジネスだ。ネットマークスやソフトバンク・テクノロジーなどのネットワークインテグレータが得意とする。ティージー情報ネットワークの事例はこの形態だ。

 IPセントレックスとIP-PBXの導入などを組み合わせることも可能だ。電話が新規ビジネスのITサービス会社には、IPセントレックスを代理店として販売し、それに伴うネットワークの再構築を請け負うといった手もある。

コストメリットは意外に少ない

 ただし、IP電話ビジネスは容易なものではない。ユーザーのコスト削減への過度の期待から価格勝負の側面が強くなりつつあるからだ。NTT-ME VoIP事業カンパニーの橘川龍也ソリューション第二グループ担当部長は「料金にしか関心を示さないユーザー企業が多い。『電話料金を半額に』が商談のスタートラインになるケースもあり、なかなか付加価値サービスの話に入れない」と嘆く。  IP電話を導入しても、実際には大幅なコスト削減につながらないケースも多いことが、商談をさらに複雑にする。大企業の中には、マイライン導入時に通信会社から7~8割引きともいわれる料金の値引きを受けた企業もあり、IP電話を導入してもメリットが少ない。

(木村 岳史)

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