ITサービス業界の2003年4~6月期の業況判断指数は、前回に比べて大幅に上昇した。最悪期を脱したという見方が支配的だが、復活の手ごたえはまだつかめていない。

 土砂降りの雨もやみ、ようやく薄日が差し込んできた―。ITサービス業界の置かれている現在の状況は、こう表現してよいのではないだろうか。

 本誌が有力ITサービス企業の協力を得て四半期ごとに実施している「ITサービス業の業況調査」は今回で19回目を迎えた。18回目の前回調査(2003年1~3月期)の業況DI(ディフュージョンインデックス)はマイナス46と過去最悪の記録を塗り替えたが、今回の調査では30ポイントも改善し、マイナス16になった。

聞こえてきた明るい声

 業況DIは、2001年10~12月期にマイナスに転じて以来、2002年4~6月期に回復の兆しを見せたものの、2002年7~10月期にマイナス41と底割れした。翌2002年10~12月期には若干ながら好転したが、2003年1~3月期に再度悪化、過去最悪の記録を更新した。そのため、いつ苦境から脱出できるのかということがITサービス業界にとって最大の関心事だった。

 景気は依然として厳しいため、予断は許さないものの、今回は30ポイントと大幅に上昇していることを考慮に入れると、業況DIの悪化に歯止めがかかったと考えてもよいのではないだろうか。

 ソリューションプロバイダからも明るい声が聞こえ始めた。前回の調査では「将来の展望が見えない」(販社)という嘆きが聞かれたが、今回の調査では「2002年10~2003年3月期は最悪だったが、4月に入ると明るい兆しが見えてきた」(ソフト会社)という前向きな見方が増えている。「若干ではあるが、需要が盛り返してきた。一部の優良企業からの受注は確実に上向いている」(ソフト会社)や「商談の件数は着実に増えている」(販社)など、回復基調にあると判断してよい意見も聞こえる。

 業況DIが大幅に改善したことに加え、売り上げDIと粗利益率DIがそろって20ポイント以上改善したことも薄日が差し込んできたと判断する材料の一つになる。売り上げDIは前回よりも30ポイント上昇して19になったうえ、粗利益率DIも23ポイント上昇してマイナス3になった。

 業況DIと売り上げDI、粗利益率DIがそろって大幅に向上したのは、業況DIがマイナスに転じた2001年10~12月期以来初めて。2002年4~6月期は業況DIと粗利益率DIが改善したものの、売り上げDIは悪化していた。また、2002年10~12月期は三つの指数がそろって改善したものの、わずかな改善にとどまっていた。

図1●ITサービス業界の業況DI*1の変化
業況、売り上げ、粗利益率がそろって改善した。今回は93社*2が回答
 
図2●業態別に見た業況DI
販社とソフト会社の数値は改善したが、ソフト会社の数値の上昇が際立つ

投資意欲も若干上向きに

 有力ITサービス企業の2003年3月期の決算は、ほとんどの企業で2002年9月中間期の決算発表会で公表した業績予想を下回っている。下方修正に追い込まれたのは、下期(2002年10~2003年3月)が予想以上に苦戦したためだ。ある販社の幹部は「下期は需要が全くなかったが、4月に入ると一部の顧客の投資意欲が上向き始めた」と手応えを感じている。

 業態別の業況DIにも、薄日が差し込んできたと判断できる兆候が表れている。ソフト会社の数値が38ポイント改善したのをはじめ、販社の数値も18ポイント上がっており、どちらも前回の調査で見込んでいた予想値を上回っている。

 業態別の売り上げDIと粗利益率DIを見ると、販社の業績が回復基調にあることが分かる。販社の売り上げDIと粗利益率DIはいずれも17とほぼ2年ぶりにプラスに転じている。販社はここ2~3年、システムの企画・設計・開発、保守・運用などのサービス事業に力を入れており、体質改善が功を奏した格好だ。

図3●業態別に見た売り上げDIと粗利益率DI
販社の売り上げDIと粗利益率DIがそろってプラスに転じたが、ソフト会社の収益の回復は 遅れている
 
図4●業態別のハード/ソフトの売り上げDIとサービスの売り上げDIの推移
ソフト会社はサービス部門の売り上げを増やしたが、販社は減らしている

粗利益率低下に悩むソフト会社

 販社とは対照的に、ソフト会社の収益の回復は遅れている。売り上げDIは21と2四半期年ぶりにプラスに転じたものの、粗利益率DIが8四半期連続でマイナスになった。相変わらず受託開発に頼っているソフト会社が少なくないのがその一因。あるソフト会社の幹部は「金融機関からの受注は大幅に減少し、厳しい状況が続いている」と話す。

 受託開発に代わってソフト会社が主力事業に育てようとしているのは、顧客の経営上の課題を解決するシステムを企画・設計・開発し、保守・運用管理までを請け負うサービス事業だ。そのサービス事業にしても、利益率が急速に低下しており、収益の回復の遅れに追い打ちをかけている。

 サービス事業の利益率が低下している背景には、ハードウエアやソフトウエアの単品販売では先行きが厳しいと判断する販社がサービス事業に相次いで参入し、価格競争が激化していることがある。あるソフト会社の幹部は「受注金額は下落傾向にある。原価を下げる努力をしているが、なかなか収益に貢献しない」と嘆く。

 業態別のサービスの売り上げDIを見ると、2002年1~3月期を境に販社の数値がソフト会社のそれを上回っている。しかし、今回の調査ではソフト会社の売り上げDIが大幅に改善した一方で、販社の数値が20ポイント悪化した結果、その差は前回よりも41ポイント縮まった。ソフト会社は営業攻勢をかけて売り上げを増やしたものの、安値受注した案件も少なからずあり、利益率の低下を招いたと見てよいだろう。

 あるソフト会社の幹部は「顧客は投資効果に敏感になっている。どこのソリューションプロバイダに任せても違いがないサービスの料金は下落傾向に歯止めがかからない」と語る。半面、ネットワークのセキュリティ監視と、ERP(統合基幹業務システム)、CRM(カスタマーリレーションシップ管理)のサービス料金は高値で安定しているという。

 これまで有望市場と言われてきたサービス市場も、儲かる分野とそうでない分野という二分化が起こり始めた。今後、経営戦略の見直しを迫られるITサービス企業も出てくるかもしれない。

図5●ユーザー企業のIT投資意欲に対する見方
「低くなっている」との回答は激減したが、「高まっている」が増えたわけでもない

契約に至るまでの期間が長期化

 サービス市場だけではなく、ハード/ソフトの売り上げも二分化を始めている。ソフト会社と販社のハード/ソフトの売り上げDIはともに改善しているが、すべての分野で販売が上向いているわけではないという。

 「サーバーは低価格製品が登場するなど単価の下落が著しいので、販売金額は落ちている」(販社)という悲観的な声がある一方で、「IP-VPN(仮想私設網)に対するニーズが高まっており、ネットワークの敷設工事を含めて仕事が増え始めている」(販社)という明るい声も聞こえる。

 二分化しているのは、顧客の投資意欲がかつてのように旺盛ではない表れと見てよいだろう。ユーザー企業のIT投資意欲に対する見方を尋ねても、「低くなっている」という回答は大幅に低下しているが、「高まっている」という見方は前回と変わっていない。「引き合いから受注に至るまでの期間が例年よりも長くなっている」(ソフト会社)や「問い合わせは増えているが、なかなか契約に至らない」(販社)という指摘も少なくない。

 あるソフト会社の幹部は「最悪期は脱したが、本格的な回復はまだ先」と見ている。次の2003年7~9月期がITサービス市場が本格的な回復期に入るかどうかの大きな試金石になる。

調査の概要

 「ITサービス業の業況調査」は、企業向けIT市場の景気動向のすう勢を把握することを目的に、本誌が四半期ごとに実施しているアンケート形式の調査。今回は2003年6月上旬に上場しているシステムインテグレータやディーラー、それらに準じる会社など計108社にアンケートを依頼し、93社から回答を得た(回答率は86%)。このうち、ソフトハウスや保守・サービス会社などサービス販売を主体とする「ソフト会社」が56社で、コンピュータ商社やディストリビュータなど製品販売を主体とする「販社」が37社だった。

 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている。本調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。


(山根 太郎)