顧客起点が叫ばれる中、顧客のソリューションプロバイダの評価は「提案力がない」「売るための“ソリューション”でしかない」などと厳しさを増す一方だ。やみくもに「営業力強化」を叫んでも、売り上げや利益は伸びるどころか、縮小傾向にある。IT導入における顧客のROI(投資対効果)評価が厳しくなり、少額案件の決裁権も経営層に近づいていく。ソリューションプロバイダは今まで以上に、経営直結のソリューション提案を求められる。顧客が求めるソリューションを提供するために、顧客に最も近い営業を起点とした、組織や全社員の役割の見直しが始まっている。

東北システムズ・サポートの新規事業開発を担うストラテジックビジネスグループの立て役者たち。左から佐々木正己同グループ・マネージャー、高橋伸也取締役営業統括部長、星野雅充第4グループ・マネージャー
 「このままでは営業がコストセンターになり会社を潰してしまう」。

 人口10万人足らずの岡山県津山市に本社を置くアスクラボの川嶋謙社長は、ITサービス業界の危機意識の低さに警鐘を鳴らす。「既存顧客からの追加受注をとることが営業だと思い込んでいる。そこでは“提案書”と称して単なる“見積書”を作っているだけで、価格競争の深みに堕ちていく」のが、その理由だ。

 そんな現状の突破策を川嶋社長は「創業期には誰もが持っていた新規顧客を開拓できるだけのスキルを蘇らせるしかない」と断言する。アスクラボ自身は、創業期メンバーを中心とした役員層が業務コンサルタントとして首都圏に新たな市場を求めると同時に、各人が持つノウハウを若手営業に伝達する仕組みの定着を急ぐ。

 だが新規顧客開拓は営業担当者の頑張りだけでは成り立たない。こんな経験はないだろうか。

 厳しい競争を乗り越えて受注した案件も、社内の開発部隊からは「こんな受注額で利益を出せるわけがない」と嫌われたり「前例のないシステム案件には手を出さないほうが無難」と後込みされたりする。

 かといって案件をとらなければ「仕事がない。どうして我々の技術力を売れないのか」と文句を言うばかり。営業担当者にすれば「プロジェクトが赤字なのは開発部隊の技術力が低いから。新しい提案などできない」となる。お互いが「だれかが何とかしてくれるだろう」では、新規開拓は無理だ。

 開発部隊を含め、だれもが「顧客にとってのソリューションとは何か」を考えられれば、会社そのものが変化する。

「何でもできる」としか
答えられない悔しさがバネに

東北システムズの佐々木正己氏

顧客のビジネスありきで常に考える黒崎賢一情報システム営業本部モバイル・コマース営業部長。その姿勢が運用技術者の意識を変えた
 「多分、御社には無理だと思う。失敗するから手を出さない方がいいよ」。

 仙台市に本社を置く受託開発会社の東北システムズ・サポート(TSS、稲葉輝雄社長)の組織体制を変えることになる案件は最初、こんな但し書き付きで持ち込まれた。

 持ち込んだのは取引先の1社である、鉄鋼メーカー系の情報システム子会社。親会社である鉄鋼メーカーが屋外倉庫で利用する棚卸しシステムの構築を検討しているという。無線対応の携帯端末使用が前提ながら使用環境が厳しいことなどから、相当に困難を伴う案件のようだった。

 だが、この話を聞いたTSSの佐々木正己第5グループ・マネージャー(当時)は「今後の有望市場だと思い独学してきた“無線”がらみなので、受注したい」と反応した。その背景には「それまで顧客に『何ができるのか』と聞かれても『何でもできます』としか答えられなかった。TSSだからこその得意分野がほしい」との悔しさもあった。

 TSSはメインフレームを含む基幹業務系アプリケーションを中心とする受託開発会社。営業部隊を置かず、顧客別に分けた技術部隊の長が営業の役割を担っていた。だが高橋伸也取締役営業統括部長は「技術者提供型のため、リスクが小さい案件を受注する傾向が強かった」と明かす。

 その中で、第5グループの佐々木マネージャーと、同グループの星野雅充氏らは常々、新規分野に飛び出したいと考えていただけに、動きは早かった。提案に必要な無線対応の携帯端末を選定すると同時に、鉄鋼メーカーの利用部門に何度も足を運びインタビューを重ねた。

(佐竹 三江、志度 昌宏)