これまでITサービス業界は右肩上がりの成長を続けてきたが,その先行きは不透明さを増してきた。一時的な調整局面を迎えたのにすぎないという見方がある一方で,市場構造が急速に変化しており,これまでのような成長は期待できないという見方が増えている。今後,ITサービス市場はどうなるのか。少なくとも競争が激化し,勝ち組と負け組の二極化が進むと見て間違いないだろう。生き残るための条件を探ってみた。

 これまで不況にあえぐほかの業界を横目に,右肩上がりの成長を続けて「我が世の春」をおう歌してきたITサービス業界の先行きも不透明さを増してきた。経済産業省の特定サービス産業動態統計によると,情報サービス産業の売上高は今年7月に初めてマイナス成長を記録した。8月はプラス成長に転じたものの,9月にも再び前年実績を下回った。

 今のところITサービス業界では「前年割れになったが,あくまでも一時的な調整局面を迎えたのにすぎず,このままずるずると下がることはない」という楽観的な見方が多いが,初のマイナス成長は業界の先行きについて何かを暗示している可能性もある。そこで,弊誌はITサービス企業の経営者,市場動向を調査しているアナリスト,今後のIT需要に大きな影響を与えるユーザー企業の経営者を取材し,ITサービス業界の将来図を探った。

 まず右上のチェックリストを試してほしい。「イエス」にチェックがいくつ付いただろうか。実は,一つでも付いたら貴社の経営に黄色信号が点滅していると考えたほうがいい。ここに挙げた7項目はITサービス企業では経営の常識のように言われてきたが,今後は常識にとらわれていると命取りになりかねないほどITサービス市場は変化する可能性が高い。

 様々な業界で勝ち組と負け組の二極化が著しく進んでいる中で,ITサービス業界だけは別世界のように競争とは無縁だった。しかし,市場構造は急速に変化しており,今後は限られた市場の奪い合いが激化し,競争力の弱い企業の淘汰・統合が進むだろう。こうした時代に備えて「業界の常識」を疑うことも必要ではないか。

Check1
「構造不況」の様相も
低成長が続くと覚悟せよ

 「確かに下方修正をしたが,通期では増収を達成できる」。2002年9月中間期決算の発表会で有力ITサービス企業の経営陣の大半は強気な姿勢を崩さなかった。しかし,国内や米国のITサービス市場の動向に詳しいデジタル産業研究所の古谷隆一主幹は「ITサービス市場が構造的に変化した可能性も否定できない」と厳しい見方を示す。

 これまでITサービス市場は,需要が一巡しても在庫調整が進むと,再び成長軌道に乗ることができた。しかし,この経験則が今回も通用する保証はない。最大の要因は,ハード製品の中国生産が本格化し,価格が大幅に下落することにある。パソコンの生産は来年から始まるうえ,2004年からIAサーバーの生産もスタートする。「たとえ出荷台数を伸ばしても,単価が大幅に下がるため,これまでのように売り上げを増やすことが難しくなるのではないか」(古谷主幹)。

 ハードの“デフレ”傾向を加速する要因は中国生産だけではない。アプリケーションを従量制料金で供給するユーティリティ・コンピューティング・サービスが普及すると,ユーザー企業はメインフレームはもちろん,サーバーもこれまでのように保有しなくなる可能性が高い。

 古谷主幹は「このままの状況では,市場は縮小しかねない。米国ではヒューレット・パッカード(HP)やサン・マイクロシステムズの首脳陣が『回復の時期が見えない』とこぼしているが,遅かれ早かれ日本も同じ状況に陥るのではないか」と予想する。

(山根 太郎)