無線LAN市場が急速な勢いで拡大している。2002年度の売り上げは昨年度の2倍に達すると予想するベンダーもある。最早,無線LANはネットワーク構築の提案には欠かせないものに。提案する際にはセキュリティ対策を絡めることが大切だ。

図1●国内無線LAN市場の成長予測

 個人にはもちろん,企業にも無線LAN(構内情報通信網)が急速に浸透している。矢野経済研究所の調べによれば,2001年度の無線LAN関連のハード製品の出荷金額は304億2000万円にのぼるという。2002年度は前年度に比べて約5割増えて452億9000万円に達すると予測している。

 実際,無線LAN関連機器を取り扱うベンダーの多くが,2002年度の事業計画で出荷台数を前年度に比べて2倍程度に増やす計画を立てている。NTT-MEで無線LAN製品MNシリーズの製品企画を担当する第4営業部門MN 128プロダクツ開発チームの有田浩之氏は「MNシリーズを売らせてほしいという引き合いが多くなっている。2002年度は台数ベースで前年度の2倍ぐらいは販売したい」と算盤を弾く。

 無線LAN市場で6割のシェアを握ると言われるメルコも2002年度は前年度比2倍の販売を見込んでいる。「当社が販売するPCカード製品の6割は法人向けで,残り4割が個人向け。どちらも昨年秋に低価格のADSL(非対称ディジタル加入者線)回線が普及したことがきっかけとなり,販売台数が急激に伸び始めた」(ネットワーク事業部マーケティンググループの柚木原功氏)。

 個人向けに開発された製品と,企業向けに製品の境目がなくなっていることも普及に拍車をかけている。家庭LANシステムを使えば,企業にとってもコストや導入の手間を減らせるなどのメリットが大きい。そのため,無線通信機能を標準搭載したパソコンなど家庭向けに開発された製品を企業が導入するケースも増えている。

 メルコによれば,2002年に入ってから出荷された380機種に及ぶパソコンのうち24%に当たる86機種に無線通信機能が標準搭載されている。その結果,パソコンに無線LAN機能を後付けするためのPCカード製品の販売台数は急速に減少している。

性能向上と低価格化が普及を促進

図2●無線LANが急速に普及した主な要因は,製品自体の使い勝手が格段に向上したことや価格が急速に下がったことだ

 無線LAN市場に弾みが付いた最大の理由は,11Mbps(ビット/秒)という高速通信ができる製品を2~3年前からベンダー各社が相次いで投入したことにある。「かつて2Mbpsの通信速度の製品を販売していた頃には,有線LANに比べて使い勝手が格段に悪かった。そのため,無線LANを導入するユーザー企業は,ケーブルの敷設が難しいといった特殊事情があるところに限られていた」と,富士通サポートアンドサービス(Fsas)の長井弘ネットワーク本部ビジネス統括部UNIX支援部長は話す。

 高速通信ができる製品の登場で,有線LANを十分に敷設できるところでも,ケーブル敷設作業そのものを嫌ったり,オフィス内のレイアウトの変更を容易にしたりするため,あえて無線LANを導入するケースが増えている。企業向け販売を専門に手掛けるアライドテレシスで無線LAN製品のマーケティングを担当するマーケティング本部商品企画部の前澤美香氏は「最近,無線LANが話題を呼んでいるためか,いきなり1000台を超える規模で導入したいというユーザー企業からの打診も増えている」と話す。

 ベンダー各社は,現在,11Mbpsよりも高速の54Mbpsの通信ができる製品の投入を急いでおり,この秋には各社から製品が出そろう予定になっている。54Mbps製品を使えば「有線LANの10BASE-Tよりも高速で通信ができるようになる。以前は無線LANではファイルの添付を禁止するといった運用ルールを設けていたユーザー企業が少なくなかったが,そうした制約は過去のものとなる」(Fsasの長井部長)。

 高速通信に対応した製品の発売とともに,製品が急速な勢いで低価格化していることも無線LANの普及に一役買っている。その口火を切ったのは「通信機器のコモディティ化」を掲げているメルコ。同社は2000年に参入した当初から積極的に無線LAN関連製品の価格の引き下げを推し進めた。他社も追随して低価格化競争が始まり,価格は従来の3分の1から4分の1にまで下落した。

 この点についてメルコは「当社としては,サポート不要の使いやすい製品にすることで低価格化を実現し,普及を推進することに力点を置いただけだ」(メルコの柚木原氏)と説明する。低価格化が進んだ結果,クライアント数台でアクセス・ポイントを使う程度なら,わずか10万円以内で無線LANを構築できるようになった。アドテックの二宮浩取締役メモリーOEM・ネットワーク事業担当は「部署ごとで決済できる金額の範囲内で購入できるようになったので,情報システム部門の知らないうちに無線LANを導入する部署が増えているケースも少なくない」と語る。

(佐竹 三江)