インターネットを経由してアプリケーションを連携できるWebサービスは巨大市場になるといわれている。近い将来に基幹系システムにもWebサービスが採用されると見られており,システム・プロバイダの対応次第では業界地図が大きく変わる可能性もある。こうした中で,システム・プロバイダはWebサービス市場が本格化する時に備えて何をすべきなのか。Webサービスで勝つ条件を探った。

図1●Webサービスは単一コンポーネントで着実に利用されている
(日経システムプロバイダ作成)
 「昨年までWebサービスは,その可能性を啓蒙する段階だった。しかし,我々の予想を上回るスピードでビジネスの世界に浸透している」。こう話すのは,日本IBMの田原晴美ソフトウェア事業部ソフトウェア・マーケティングエマージング・テクノロジー担当部長である。

 Webサービスは,必要なときにインターネット上に公開されたアプリケーションの機能を呼び出して利用するためのもの。既に普及しているWebブラウザ・ベースのWebアプリケーションと最も大きく異なるところは,データを標準言語であるXML(拡張マークアップ言語)で記述し,同じく標準技術であるSOAP(シンプル・オブジェクト・アクセス・プロトコル)を使うことだ。

表1●Webサービスの技術を利用したシステム構築の例
(日経システムプロバイダ作成)

 この標準言語と標準技術を応用することで,Webサービスを登録・検索するための仕組みであるUDDI(ユニバーサル・ディスクリプション・ディスカバリ・アンド・インテグレーション)やWebサービスの利用方法を記述する言語のWDSL(Webサービス記述言語)を確立し,近い将来にインターネット上に公開されたWebサービス同士を連携して利用できるようになる。

 その結果,ビジネスの仕組みが大きく変わる可能性が大きい。例えば,あるメーカーが部品を発注するとき,UDDIに登録されていれば世界各国にある見知らぬ部品メーカーとも取引できるようになる。Webサービスを検索し,世界中の様々な部品メーカーに見積もりを依頼し,その中から最も条件の良いところに発注,さらに決済,配送の依頼などについても様々なWebサービスの中から最適なものを自動的に選ぶことができる。

 Webサービスは基幹システムにも使われるため,巨大市場になると見られている。米IDCは,ソフトとサービス,ハードを合わせたWebサービス関連市場は2004年の16億ドルから2007年には340億ドルに拡大すると予想する。

既にユーザー企業にも普及

 もっとも,インターネット上に公開された不特定多数のWebサービスを使えるようになるのは,早くても数年先のことだといわれている。取引実績がない会社が信用できる相手であると保証する仕組みや,商取引の手順の標準化などが解決されていないからだ。そのため,システム・プロバイダの中には今のところWebサービスに対して本腰を入れて取り組んでいないところが少なくない。しかし,将来の話だと高をくくっていると,後で取り返しのつかない事態を招くことにもなりかねない。既にユーザー企業の一部はWebサービスの導入を始めている。

 顧客情報や商談状況,売り上げ情報の管理などをASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)で提供しているセールスフォース・ドットコム(東京都渋谷区,北村彰社長)は今年4月,ASPにWebサービスを導入した。これまでASPを利用するにはいちいちWebブラウザでCRM(カスタマ・リレーションシップ管理)サーバーにアクセスしなければならなかったが,Webブラウザから利用していたWebアプリケーションにSOAPやXMLの技術を使ったことで,ユーザー企業はASPにアクセスしなくてもサービスを受けられるようになった。ユーザーからは好評で,顧客数は今年2月末で200社に達しており,来年2月までには700社に増やす。

図2●セールスフォース・ドットコムはWebサービスを使って,CRMアプリケーションのASPをオフラインでも利用できるようにした
(日経システムプロバイダ作成)

 オフライン状態でもASPのサービスを提供できるようにするため同社が着目したのが,サービスの呼び出し側であるクライアントの改善だった。サーバー側のWebサービスにアクセスし,必要なデータをクライアント側に蓄積する機能と,取り込んだデータを使うためのCRMアプリケーションの一部の機能をソフトにしてユーザー企業に配布すると同時に,CRMアプリケーション・サーバーにXMLのインタフェースを使い,アクセスに必要なWebサービスをゲートウエイ機能として提供することで,ASPにWebサービスを使った(図2[拡大表示])。

 ASPは,これまで有望なITサービス市場だと期待されていたが,今のところユーザー企業にはそれほど普及していない。その最大の原因が,いちいちオンライン接続しないとユーザー企業はサービスを受けることができないところにあった。オフライン状態でも利用できるようになったことで,ASPサービスの使い勝手は格段によくなった。ASPにWebサービスを使うことがきっかけとなって,ASPの市場のすそ野が広がる可能性が大きい。

 セールスフォース・ドットコムがASPにWebサービスを採用することで狙ったのは,オフライン状態でASPを利用できることだけではない。ユーザー企業が社内のシステムと連携させ,データを自由にやり取りできることも狙った。実際,顧客の中には専用のGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)を持つクライアント・アプリケーションを開発したり,コールセンターのCTI(コンピュータ・テレフォニ・インテグレーション)システムと連携したりしているところもあるという。

(森重 和春)