システム・プロバイダはこれまでベンダー資格を積極的に取得してきた。それが最近,ベンダー系より公的資格や非ベンダー系資格を重視する動きが高まっている。“旬”の期間が短いベンダー資格はROI(投資回収率)が悪いからだ。顧客と直接,対話するポジションを確保したいシステム・プロバイダほど,プロジェクト管理やコミュニケーションといった能力を重視する。

図1●“旬”なIT(情報技術)関連の認定資格。短期的にはベンダー系,本質的には公的資格が,将来的には非ベンダー系が注目されている
(日経システムプロバイダ作成)

 「2003年10月までに,支給してきたベンダー資格の月次手当を全面廃止する」。

 大塚商会は昨年末,全社員にこんな通達を出した。同社はこれまでベンダー資格の取得を積極的に進めてきた。資格取得者には,合格時に支給する一時金に加え,毎月の給与にも資格手当を上乗せしてきた。それを今回,すべてのベンダー資格に対する月次手当の支給を取り止める。

 その理由を,マーケティング本部アプリケーションソリューションセンターの村上倫明理事は「ベンダー資格は継続性に難がある。例えば,3年ほど前には米ノベルのNetWare技術者の養成にかなりの金額を注ぎ込んだ。しかし今となってはNetWare技術者のニーズはほとんどない。“旬”が短いベンダー資格に投資した効果が果たしてどれだけあったのか十分に検証できていない」ためと説明する。

 そこには「ベンダー資格がなければ,製品が売れないということはなかったし,有資格者が少なくて困ったこともはあまりない」(村上理事)との現実がある。今後,大塚商会は「投資対効果をきちんと見極めて取得する資格を決めていく」(同)。

再評価され始めた公的資格

 大塚商会同様に,資格の取得基準を見直すシステム・プロバイダが増えている。ユーザー企業の視点が情報システムの“所有から利用”へ移るなど,ITサービス業界が大きな変革期を迎えているからだ。

 本誌が有力システム・プロバイダを対象に実施した独自アンケートと取材からは,資格の選択基準が三つに分かれ“旬”に左右されにくい公的資格を中心に,新しい基礎技術を対象にした非ベンダー系資格を重視する傾向が浮かんできた(図1[拡大表示])。目前のビジネスを手掛けるのに必要な“旬”のベンダー資格に対しても,インフラに近く“寿命が長い”資格に集中する。

ROI低いベンダー資格

 ベンダー資格と徐々に距離をおこうとするシステム・プロバイダが増えてきた理由は明らか。「今の市場に多大な影響力を持つベンダーの資格に市場価値があるのは明確だ。だが,その資格がいつまで役立つかは不透明」(日本タイムシェアの橋口徹也システムソリューション事業部オープンソリューション部長)だからだ。

 その背景には「単なる流行で終わる資格や,他に流用できない資格を次から次へと追いかけ続けることが,本当に技術者のためになるのだろうか。それよりも,もっと基礎的な技術を広く学び,後々まで生かせる資格を優先すべき」(同)と,技術の本質を見失いかけていることへの反省がある。

 加えて,情報システムのインフラがIP(インターネット・プロトコル)にシフトし,ネットワークと不可分になってきたことで,1社のベンダー資格だけでは通用しなくなってきたことがある。ネットマークスの山川拓也テクニカルサポートセンター部長によれば「最近は技術の合わせ技が必要になる場面が増えてきた」。

 例えば,需要が今年,急増すると見られるIP電話がその一つ。音声をIPネットワークに乗せることで,これまで電話とデータで2系統必要だった通信回線を1本にまとめコストを大幅に削減する。IP電話のための通信機器の主力ベンダーは米シスコシステムズ。かといってシスコの資格だけで,IP電話と融合が始まるサーバーOSやデータベースまでをカバーできないし,その逆も同様だ。

 ベンダー資格に代わってシステム・プロバイダがROIの高い資格として期待するのが,情報処理技術者資格などの公的資格。中でも,システム設計の上流工程に関するシステムアナリストやプロジェクトマネージャ,中堅・中小企業向けコンサルタントのITコーディネータなどに期待する。

 ベンダー資格への月次手当を止める大塚商会にしても,情報処理技術者資格に対する月次手当は支給し続ける方針だ。「一過性の技術ではなく,普遍的なITを幅広く学べる。プロジェクトマネージャやアプリケーションエンジニアなどの上級資格は,社内教育では教えられない価値がある」(村上理事)と判断する。

(渡辺 一正)