サーバー用OSにLinuxを選ぶユーザーが急増している。Linuxベースのシステムが「低価格」であることに加え,最近では「安定性」をユーザーが評価し始めたからだ。大手システム・プロバイダの一部はこの動きを見越し,Linuxに詳しいエンジニアを増員するなど体制を整え始めた。Linuxはシステム・プロバイダのビジネスモデルを変える可能性もあるので,自社の「特技」を明確にし,技術力に磨きをかけておく必要がある。

 「Linuxでやってみるか」――中堅証券会社の立花証券で,オンライン取引サイトの構築を任されている第二電算部企画課の高橋良雄氏は,こうつぶやいた。営業担当者による対面販売が中心の立花証券が,インターネットによる株式売買サービスを始める計画を立てたのは1998年のことだ。経営陣は当初からプロジェクトのメンバーに厳しい条件を課した。

 その一つが,できる限り予算を抑えることだった。オンライン取引を専業とする証券会社と違い,立花証券ではインターネットによる株式売買は,窓口営業を補完するという位置付けにすぎない。基幹システムの大半はSolarisベースのサーバーで,限られた予算の中でオンライン取引システムを構築するにはSolarisを採用することは実質的に不可能だった。

 予算を抑える一方で,経営陣はシステムの安定性にも配慮するように求めてきた。Webサイトとはいえ,売り上げに直結する株式売買サービスでは「数分のダウンしただけでも数千万円単位の売り上げを逃すこともあり得る」(第二電算部の小松則夫部長)からだ。

 第二電算部では以前,取引先の依頼で部門別にWindows NTでサーバーを立ち上げたところ「2~3カ月に1度は止まるうえ,その原因が突き止められず,気まずい思いがした」(高橋氏)。かといって,限られた予算の中で,質の高いサポート・サービスの契約を結ぶわけにもいかない。「ブラックボックスのようになっていて,当社がノウハウを吸収できないようなサーバーに,なぜ多額の保守料を支払わなくてはならないのか釈然としなかった」(小松部長)。

米国では3割強がLinuxに

 こうした中で,立花証券が着目したのがLinuxだった。2年ほど前,試験的にメール・サーバーをLinuxで構築して運用したところ「古い機器を使ったのにダウンすることが全くなかった」(高橋氏)ことが採用の決め手となった。LinuxとPCサーバーをベースにしたオンライン取引のシステムの構築は既に始まり,作業は順調に進んでいる。テストでも安定して動作しており,今年夏にサービスを無事に開始できそうだ。

 立花証券が新たに立ち上げるシステムにLinuxを採用したのに対し,既存のWindowsサーバーをLinuxに置き換えるユーザーもいる。静岡市に本社を置く部品メーカーの矢崎加工もその一つだ。

 矢崎加工はWindowsによるメール・サーバーを運用してきたが,サーバー本体がリース切れを迎えるのにあたり,システムを見直した。「機能をアップするか,コストダウンを図らなければ,トップの理解は得られない」と考えた情報システム部の柏崎仁システム1課長は,Linuxによるコストダウンを選んだ。

 柏崎課長は,システム・プロバイダ数社に,現在のWindowsでサーバーを構築した場合と,Linuxを採用した場合の見積もりをそれぞれ提出するように依頼したところ,LinuxはWindowsの約半額ですむことが分かった。UNIXについて明るい柏崎課長は「UNIXの流れをくむLinuxならば,Windowsよりも安定したシステムを構築できるだろう」と判断し,Linuxへのリプレースを決断した。

 コストを半額にできた秘密は,サーバーのライセンス料よりも,クライアント側のライセンス料にある。矢崎加工がWindowsで初めてメール・サーバーを構築した頃と違い,今では1000人に及ぶ全社員にアドレスを割り当てている。「1000人分のライセンス料を考えると,Windowsを引き続き使うことに躊躇せざるを得なかった」(柏崎課長)。Linuxを採用すれば,クライアント・ライセンス料を心配する必要はない。

(松尾 康徳)