ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)に代表されるxSP(各種サービス・プロバイダ)のビジネスがじわじわと確実に広がり始めた。順調に事業を伸ばしているxSPの共通点は,提供するサービスの内容はもとより,客先にサービスを届けるためのデリバリ体制の確立に投資していることだ。顧客数が増えれば増えるほど,サービス提供者側の負荷は増える。デリバリのコストをいかに下げられるかで,xSP事業の成否が決まる。

 「取引先などを数千から数万社持つような一般企業からも,代理店販売したいという申し出が相次いでいる。ASPサービスを顧客囲い込みの材料にするためだ」。

 大塚商会の中浜康史マーケティング本部Web事業推進部販売支援課長は,電子メールのASPサービスであるαメールを中心としたxSP事業が,直販事業の枠を超えて広がってきたと,頬を緩ませる。

 大塚商会が展開するASPサービスの中で,電子メールを対象にしたαメールのユーザー数は2002年3月時点で1万5000社にまで伸びた。その下支えになっているのが,昨年7月から本格展開を始めた代理店/取次店制度。既に代理店120社,取次店140社を獲得した。その内訳は「システム・プロバイダなど同業者は2割で,残り8割はいわゆるユーザー企業」(中浜課長)だという。

 2002年度(12月期)は代理店/取次店の数を500社程度に増やし,直販と合わせて毎月600社の新規ユーザー獲得を目標にする。年度末に実稼働ユーザーを2万社は確保したい考えだ。最近はOEM(相手先ブランドによる生産)供給に向けた商談も数社と開始した。

運用ノウハウに価値がある

図1●xSP(各種サービス・プロバイダ)の成功ポイントは“サービス・デリバリ”の仕組みにある
(日経システムプロバイダ作成)

 だが,中浜課長はOEMには慎重だ。「OEM先が当社と同じレベルでシステムを運用したり,販促活動を展開したりできるとは限らないため」だ。「xSPサービスで重要なことは,多数の代理店との契約や顧客管理,代金請求の仕組みなど,当社のxSPサービスを客先まで確実に届けるための仕組みそのものだ。OEM先も結局は,アプリケーションよりも,運用ノウハウなどを求めてくるのではないか」(中浜課長)と見る。

 大塚商会に限らず,顧客数を確実に伸ばし始めたxSPらは一様に,アプリケーション・サービスそのものよりも,サービスを生成しているシステムの運用や,顧客との接点である契約・課金といった仕組みに注力していることが明らかになってきた(図1[拡大表示])。米IBMが本格展開を始めたeビジネス・オン・デマンドも「IBMが手掛けるのは,サービス・デリバリの仕組みであり,業務・業種ノウハウはユーザー企業やパートナ企業と共同開発する」(ストラテジ担当バイスプレジデントのデヴァジット・マッカジー氏)方針だ。

 サービス・デリバリのポイントは(1)無人化,(2)営業力,(3)商品力,(4)大型投資をしない,の四つ。以下では,その実例を紹介する。


ポイント1●無人で届ける仕組みを作る

 サービス・デリバリの第1ポイントは,運用体制の無人化への挑戦だ。

 xSPビジネスと売り切りビジネスの最大の違いは,IT(情報技術)が提供する機能の発生場所にある。顧客がサーバーやアプリケーションを購入する売り切りビジネスでは,機器を設置した後に客先で何が起こっているかのすべては感知できないし,それに対応する責任もなかった。多くのシステム・プロバイダが営業力やアプリケーション開発力は抱えていても,運用・サポート力が弱いのはこのためだ。

 これに対し,サーバーを運用してITの価値だけを提供するxSPビジネスでは,顧客が自力対応してきた運用上の課題までもxSPがすべて把握し対応する必要がある。これを,従来の売り切りビジネスと同じ方法で対処しても,儲からないのは明らかだ。加えて,営業から開発,運用・サポートまでの仕組みを,営業担当者の“人力”だけに頼らずネット上で実現する必要がある。

 この2月時点で200社・2000ユーザーを獲得したCRM(カスタマ・リレーションシップ管理)のASPサービスを手掛ける米セールスフォース・ドットコム日本法人(東京都渋谷区)の北村彰社長は,成功の秘訣を「営業から契約,課金・請求,ヘルプデスクまでの全過程がシステムとして実現できているため」と明かす。

(志度 昌宏)