日立製作所やNTTデータなど国内SIベンダー各社は,Linuxを中心とするOSS(オープン・ソース・ソフトウエア)の利用を推進する「日本OSS推進フォーラム」を2003年12月に設立する。事務局は経済産業省の外郭団体である情報処理振興事業協会(IPA)。同時に,中国と韓国も同じ目的を持つフォーラムを設立し,3国のフォーラムを束ねる「日中韓OSS推進パートナーシップ」(仮称)を結成する。

日中韓オープンソースビジネス懇談会
 日本OSS推進フォーラムおよび日中韓OSS推進パートナーシップを設立する狙いは,米Microsoft製に限らないOSの選択肢としてLinuxの利用を推進すること。携帯電話や情報家電の組み込みOSとして適用したり,企業情報システム構築のツールとして利用されるよう働きかける。韓国政府は元々UNIXを使い続けてきたという歴史を持つ。日本政府もソース・コードにアクセスできるLinuxを推進したがっている。中国は世界の工場であり,政府と民間の距離が近く,政府の意向が反映されやすい。フォーラム結成後は,政府だけでなく民間企業においてもLinuxの採用事例が増えることを期待している。

 今後は,第1回目のフォーラムを2004年3月に北京で,2回目を2004年7月に札幌で,3回目を2004年11月にソウルで開催する。活動内容は以下の通り。(1)目的ごとのワーキング・グループ(WG)を作る。具体的には,標準化WG,組み込みWG,運用管理・サポート・ビジネスモデルWG,人材WGなどを設立する。(2)OSSに関わる人材のデータベースを作る。誰がOSSに関する何を知っているのか,詳しい人は誰なのか,を調べられるようにする。

 日本OSS推進フォーラムの構成は以下の通り。代表幹事は日立製作所の桑原洋取締役。幹事団は6人で,NTTデータの青木利晴相談役,富士通の秋草直之会長,日本IBMの大歳卓麻社長,NECの金杉明信社長,社団法人日本情報システム・ユーザー協会の河野俊二会長,アルゴ21の佐藤雄二朗会長,である。顧問団は11人で,野村総合研究所の太田清史副会長,住友電気工業の川上哲郎相談役,松下電器産業の櫛木好明常務,金沢工業大学の國井利泰教授,アプリックスの郡山龍会長,東京ガスの膳場忠常務,新日鉄ソリューションズの棚橋康郎会長,慶応大学環境情報学部の徳田英幸教授,ソニーの所眞理雄常務,NTTコムウェアの長野宏宣取締役,SRAの丸森隆吾会長,である。

 2003年11月14日には大阪で,3国協力によるキックオフ・ミーティング「日中韓オープンソースビジネス懇談会」を開催した。主催は,社団法人情報サービス産業協会(JISA)。協賛は,中国軟件行業協会(CSIA)と韓国情報産業連合会(FKII)。後援は経済産業省。

 日中韓オープンソースビジネス懇談会は,2つの分科会に分かれてOSS適用事例を発表。企業情報システムへの適用例などを集めたセッションA「OSSビジネスモデルとソリューション」は11事例,組み込み用途の例を集めたセッションB「エンベッディドシステム及びデスクトップの動向」は6事例で構成した。

 セッションでの主なSIベンダー各社の講演内容は以下の通り。北海道の教育用ネットワークを構築したNTTコムウェアは「オープンであることが顧客満足度につながる」と評価。毎日コミュニケーションズのWebマーケティング・システムを構築したNECソフトは「Linuxは素早く性能の拡張に対応でき,チューニングがしやすい。メンテナンスもTelnetで遠隔ログインするだけの手軽さ」と評価。古くからOSSのサポート・ビジネスを提供してきたSRAは「ブランドを作ることで企業ユーザーのOSSに対する抵抗感を払拭できる」と語った。NECは大規模事例としてIA-64ベースのLinuxを16CPUマシン上で実働させているドイツ気候計算センター(Deutsche Klimarechenzentrum GmbH:DKRZ)を紹介した。ケイ・オプティコムの工事工程管理システムを構築した日立製作所は「OSSで構築したことでエンジニアのモチベーションが高まり,生産性が上がった」と発言。栃木県の電子申請受付システムを構築した富士通は「自社製メインフレームもLinuxも,エンジニアがソース・コードにアクセスできるという共通のメリットがある」という見方を示した。

(日川 佳三=日経システム構築)