電話番号を使ってインターネット上のさまざまなアプリケーションにアクセスできるようにする--。「ENUM(イーナム)」と呼ばれるこの仕組みについて技術的な実験を行うグループ「ENUMトライアルジャパン(略称ETJP)」(http://etjp.jp/)が2003年9月17日,設立された。設立当初の会員は,日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC),日本レジストリサービス(JPRS),WIDE Projectといったインターネット関連組織のほか,NTTやシスコシステムズ,ソフトバンクBBなど合計20団体。会長には早稲田大学の後藤滋樹教授が就任した。

 ETJPは今後約1年間をかけてENUMの実証実験を進め,結果をWebサイトなどで一般に公開する。実験は3つのフェーズに分け,第1フェーズではENUMを使った通信機器・ソフトの動作検証,第2フェーズではENUMを使った通信サービスの動作検証,第3フェーズでは利用者の操作を含めた通信サービス全体の動作検証を行う。

 ENUMとは,国際的な電話番号の規格(ITU-T E.164勧告)に基づく電話番号をキーにしてDNSを検索することにより,その番号に対応するアプリケーションをURI形式(URLはURIのサブセット)で受け取る仕組み。IETFを中心に仕様の検討と標準化が進められており,ITU-Tでも運用方針が検討されている。

 仕組みを簡単に説明すると,例えば「+81-3-1234-5678」という電話番号の場合,数字以外の文字を省き,各数字の間にドット(.)を入れ,数字を逆順にしたものに文字列(.e164.arpa)を追加して「8.7.6.5.4.3.2.1.3.1.8.e164.arpa」という文字列をドメイン名とする。そして,このドメイン名に対するURIをDNSが返す。

 URIには,例えばIP電話の番号を指定できる。IP電話ではこれまで,あて先の電話番号と端末を対応づける方法としてH.323,SIPといった技術があった。ENUMは,この対応づけに端末のIPアドレスを使わず,アプリケーション(サービス)のURIを使う点が異なる。もちろん,H.323やSIPと組み合わせて使うことも可能だ。さらに,URIを使うことにより,電話番号のほかメール・アドレスやWebページなども指定できる。A氏の電話番号が分かれば,A氏のメール・アドレスやホームページも分かる,といった具合だ。

 会長に就任した早大の後藤教授は設立総会後の記者会見で,「ENUMにはセキュリティなど課題がたくさんある。しかし,そうした課題こそETJPの場を通して解決を図っていきたい。商用化を促進する方向で,技術の検証ができるオープンな場を提供していく」と語った。海外では,すでに欧州や,シンガポール,中国などで同様の実証実験が始まっている。

(杉山 裕幸=日経システム構築)