米Oracleは同社のプライベート・ショウ「Oracle World San Francisco 2003」(米国サンフランシスコ市,9月8日~11日)において,データベース管理システムの新バージョン「Oracle Database 10g」を発表した。

 従来,バージョン番号の後に続くアルファベットは“インターネット”の「i」だったが,今回,“グリッド・コンピューティング”の「g」に変わった。主な機能強化の多くは,グリッド・コンピューティングに向けたもの。「グリッド・コンピューティングは,クライアント/サーバーからインターネットに変わったのと同様に,新たなパラダイム」(サーバー・テクノロジー担当副社長Ken Jacobs氏)と捉え,今後しばらく,この方向性を推し進めていく構えだ。

 Oracleが考えるグリッド・コンピューティングとは,一般的な定義とはやや異なる。一般的には,“異なる場所にある,異機種のマシンを仮想的に一つの巨大なコンピュータのように扱える”ことを指す。インターネット上の数多くのパソコンを使ってスーパーコンピュータと同等の処理能力を引き出すような用途である。

 Oracle Database 10gのグリッドは,クラスタリングやSAN(Storage Area Network)の延長で,“コンピュータ資源を1カ所に集めて,仮想化し,効率よく利用する”という狙いである。給与計算や会計など運用形態が様々なアプリケーションを1つのサーバー群に集約し,空いているコンピュータ資源に負荷を効率よく配分する環境を実現する。システムのコスト低減や信頼性向上が主なメリット。また,小規模システムを徐々に拡張していけるという良さもある。

 それを実現するための機能として,3つの重要な強化点がある。(1)ストレージの仮想化に向けたASM(Automatic Storage Management),(2)クラスタリング機能RAC(Real Application Clusters)の動的な負荷分散機能,(3)これらを統合的に監視・管理するための環境「gridコントロール」--である。

 ASMは,ディスクI/Oの負荷を監視し,ボトルネックがある部分を自動的に改善する機能を備える。これまで,エンジニアがデータベースのファイル配置を最適化するための物理設計が必要だったが,その作業を自動化する。また,NASなどネットワークに接続した複数のストレージ装置を仮想的に1つのストレージ装置として扱えるため,追加や削除など管理面での作業を簡素化できる。

 RACの新機能として,動的に処理を負荷分散するためのソフトを追加する。これまでは複数サーバーに平等に処理を振り分けていたが,負荷状況を見ながら処理を振り分ける。これにより,よりスケーラビリティが向上するという。

 これらの状況を,監視するgridコントロールを,新たな管理ツール「Oracle Enterprise Manager 10g」に用意する。負荷分散の状況監視や仮想化の設定など,統合的に管理できる。

 ASMでストレージのグリッド,RACでCPUのグリッドを実現し,それらを統合的に管理できる形になる。ただこれらの技術は,これまでのOracle Database 9iに備えていた機能を強化しただけのもの。ソフトだけでは劇的な変化はない。“グリッド”のメリットを得るには,ブレード・コンピュータのような低価格のサーバーを集約しやすい環境,NASのような低価格のストレージ装置,サーバー間を結ぶ高速なインターコネクトなどハードウエアの新技術とセットで実現する必要がある。一方で,RACのスケーラビリティも,“低価格なマシンを数多くつなげる”グリッド環境では,まだ課題が残る。多くのユーザーがその価値を享受するには,まだ少し時間がかかりそうだ。

(森側 真一=日経システム構築)