富士通は5月19日,オープンソースのデータベース管理システム(DBMS)「PostgreSQL」に同社のDBMS「SymfoWare」のエンジン部分を組み合わせた製品「PostgreSQL Plus(仮称)」を開発中であることを明らかにした。6月中には開発者向けの評価版を提供。9月末までに日本国内の主要なPostgreSQLディストリビュータを通じて販売する。5月21日から東京国際展示場で開催される「LinuxWorld Expo/Tokyo 2003」でアルファ版のデモを公開する。

 PostgreSQL Plusは,PostgreSQL7.3.2のSQLプロセッサ部分と,SymfoWareのデータI/O処理部分とを組み合わせたソフト。アプリケーションやDB設計者から見ればPostgreSQLのように見えるが,裏ではディスクI/O関連の処理はすべて,SymfoWare部分が実行する形になる。

 これにより,既存のPostgreSQLに比べ,性能の向上やリカバリの強化を実現する。性能向上では,(1)トランザクション処理性能の向上,(2)バックアップの高速化,(3)領域再編成処理の高速化,(4)データ・ローディングの高速化,を挙げる。例えば,アルファ版でトランザクション処理性能を計測した結果,軽い処理を対象にしたベンチマーク(TPC-B)において,2CPUのマシンで16プロセスを同時実行した場合に約2倍のスループットを得た,という。

 また領域の再編成では,既存のPostgreSQLはディスクの空き領域を整理するVACUUM処理が性能上の問題となるが,PostgreSQL Plusでは不要になる。バックアップやデータ・ローディングが高速な理由を富士通は,「既存のPostgreSQLよりもプリミティブなレベルで実行するため」(ソフトウェア事業本部 ミドルウェアプラットフォーム事業部 第二開発部 プロジェクト課長 仲沢孝之氏)と説明する。

 リカバリの強化では,トランザクション・ログを使って,障害の直前までデータを復旧できる機能を提供する。同様の機能は,PostgreSQLの次期版7.4でも実装が予定されている。PostgreSQL Plusで先行して実現することになる。

 同社は,PostgreSQL Plusをエントリ・レベルのDB用途として位置付ける。価格も,「トラブルの受け付けとパッチ提供など最低限のレベルのサポートを提供した上で,年間20万円前後の予定」(ソフトウェア事業本部 ミドルウェアプラットフォーム事業部 事業部長 橋本光廣氏)と低価格に設定。ただし,稼働マシンは2CPUまでの限定となる。

 PostgreSQL Plusは,バイナリ製品としてのみの提供。一方,J2EE(Java 2 Platform,Enterprise Edition)対応のPostgreSQL用JDBCドライバも開発中であり,これはPostgreSQLコミュニティに提供し,オープンソースとする予定である。従来J2EE対応のJDBCドライバは,J2EE1.3のCTS (Compatibility Test Suite) に合格していなかったことから,ユーザーが安心して利用できるようにするために提供すると言う。

このほか,SQLプロセッサ部分への機能拡張に対し,今後コミュニティへの協力を検討中である。しかしDBエンジン部分に関しては「現状のものをそのまま提供するつもりはない。オープンソース化するとしてもサブセットとなるが,今はそれを作る体力がない」(橋本氏)と,当面はその計画はない。

 今回の製品は,オープンソースを使うことで安価なバイナリ製品を提供するもの。提供するもの自体はオープンソースではないが,それでも,基幹系システムに必要な機能をオープンソースに組み込むベンダーの動きとして注目に値する。今後,ベンダーがコミュニティに協力することで基幹系システムに向けた強化が進めば,より本格的なオープンソース・ソフトの導入が広まると予想される。

(森側 真一=日経システム構築)