マイクロソフトはこの8月,メッセージング&コラボレーション・ソフトの最新版「Exchange Server 2003」を発売した。このほど来日したExchangeプログラム・マネジメント・ディレクタのテリー・マイヤーソン氏にこの新版の設計方針などをインタビューした。

(聞き手:干場一彦=日経Windowsプロ編集長)


米Microsoft Exchangeプログラム・マネジメント・ディレクタ
テリー・マイヤーソン氏


――日本でもこの8月から「Exchange Server 2003」が発売されました。景気がよくないこともあり,情報システム投資に費用対効果が厳しく求められています。Exchange Server 2003の設計にもこれは考慮されているのでしょうか?

[テリー・マイヤーソン氏] 新版は2つのテーマを設けて設計しました。1つは「Do more with less(より少ないコストでより大きな効果を得る)」というコンセプトです。Exchange ServerはもちろんWindows Serverなどすべての製品にこの概念を組み込んでいます。

 これを実現するために多くの機能を盛り込んで,サイトの集約を可能にしています。すなわち,より少ないサーバーで同じ数のユーザーをサポートできるようにするとともに,より優れた機能をより多くのユーザーが使えるようにしています。それによってコストが節約できるようになりますし,結果的にサーバー数も少なく,場所も少ない。スタッフも集中したところで管理ができます。

 もう1つのテーマはエンドユーザーの生産性向上です。特に「Mobility(モバイル環境での利用しやすさ)」に焦点を当てました。われわれはモバイル環境を広くとらえています。携帯電話やPDAだけでなく,ノートPCからダイヤルアップ・ネットワークでアクセスする場合にもこれが反映されています。エンドユーザーの生産性が上がれば,より少ないコストで多くの仕事ができるようになります。

――Exchange Server 2003でどれくらいコストを削減できますか?

[マイヤーソン] いくつか例を数値として挙げられます。ユーザーがどのように電子メールを利用するかによりますが,ネットワークのコストを30~70%削減可能でしょう。以前,MicrosoftではExchangeのサーバーを110の拠点に設置し,それぞれに訓練を受けたスタッフを置いていました。Exchange Server 2003を導入した今では,これが9カ所に減っています。オフィスを100減らしたことに伴ってスタッフ数も削減できました。運用・管理コストとしては,かなりの削減になります。

 また,Windows Server 2003ではクラスタリングで8ノードまでをサポートするようになりました。Windows 2000では基本的に2ノードでしたので,この点でもコストが削減できます。Exchange 2000とWindows 2000の組み合わせでは,1台が稼働状態でもう1台が待機状態にして利用することがほとんどでした。Exchange Server 2003とWindows Server 2003の組み合わせでは,7台が稼働状態で1ノードが待機状態のシステムを構築できます。待機状態のマシンといえどもコストがかかります。待機状態のマシンの数が減ることでコスト削減が可能になります。もちろん可用性にも影響しません。

――少ないサイトとサーバーで業務をこなす場合,システムの信頼性がより厳しく問われるようになります。Exchange Server 2003ではどのような設計上の配慮がされていますか?

[マイヤーソン] ここで2つの側面を見る必要があります。一番重要なことはクライアントの可用性をどのように管理するかということです。つまり,エンドユーザーの生産性を考えねばなりません。Exchange Server 2003に関しては,クライアントのほうで非常に高い質とユーザー・エクスペリエンスの一貫性を十分認識していることが特徴です。

 サーバーに関しては2つの点が配慮されています。クラスタリングが重要であることで,それがやりやすいように,かなりの改良のための投資をしました。コストに関してもより低いコストで可用性を確保するように考慮しました。可用性の確保で一番難しいのは,経験上ハードウエアやディスク・ドライブでの故障への対処でした。そこで,バックアップやリストア,ディザスタ・リカバリに関してかなりの投資をしました。

 企業のIT専門家の間などでは,サービス・レベル契約を結んでいますので,バックアップも短時間でできることが必要です。バックアップ/リストアの時間を少なくするため,Windows Server 2003とExchange Server 2003の間でボリューム・シャドー・コピーという革新的な技術を採用しました。従来,サーバーにトラブルがあると復旧に何時間もかかっていましたが,数分間で復旧できる技術です。システムの規模にもよりますが,ディスク・ドライブからのリストアであれば,1分ほどでリストアできる場合もあります。テープであれば10分かかるかもしれませんが,一般に負荷は低いものです。

――開発の際に顧客からのフィードバックを得たとのことですが,どのような方法で行っているのでしょうか?

[マイヤーソン] 顧客とはいろいろな接点があります。まずJDP(Joint Development Partners)や早期導入ユーザーのように開発の初期段階から共同で作業することでフィードバックを得ています。それから非常に広範な意味での調査も行います。また,いろいろな規模のユーザーにアンケートを行って答えを得ます。ほかにもサポート・コールをすべて分析しまして,顧客に反映できるように考えます。実際に現場に出ているTAM(テクニカル・アカウント・マネージャ)のような技術者もおり,フィードバックを電子メールで毎日得ています。それを分析して反映します。Exchangeには1億1500万のカスタマがいますので,フィードバックはコンスタントに受け取ります。われわれはお客さんの声を聞くのを楽しんでおり,彼らのニーズになるべくこたえられるようにと思っています。

――最近顧客の声で変化したところはありますか。

[マイヤーソン] 最近の傾向の1つとして政府の規制に関するものがあります。ビジネスと顧客の間のコミュニケーションに関する規制です。具体的には,セキュリティの業界やヘルスケアの業界に見られるトレンドです。全世界で政府の規制がありますので,それについて新しい要求がでてきます。

――セキュリティ向上に対する要望はやはり高まっていますか?Exchange Server 2003ではどのように取り組まれていますか?

[マイヤーソン] この製品では,開発チームがサーバーをどのように守るかという訓練を受けて開発を行いました。私たちは,コードをすべてレビューしまして,どの点がぜい弱性を持っているか調べました。また,外部の専門家チームを雇いましてサーバーの仕様について調べてもらいました。さらにカスタマがシステムを展開するときの作業を支援する新しいツールを作りました。

――Exchange Server 2003にはセキュリティ・ホールは,ほとんどないといってよろしいのでしょうか?

[マイヤーソン] 出荷する前にセキュリティ・ホールが見つかれば出荷しません。Exchangeだけでなくすべての製品のポリシーです。もし,出荷した後に見つかったら,隠すことなくそれを修正して顧客に通知すべく公表します。

――Exchange Server 2003は,Windows Server 2003やOutlook 2003と連携した機能が多くあります。Exchange Server 2003の効果をすべて出そうとするとOSもクライアントもアップグレードしなければならないとなると,負担が大きくなると思います。よりコストを押さえた導入方法は考えておられますか?

[マイヤーソン] Exchange Server 2003はすべてのバージョンのOutlookをカバーします。また,Webブラウザから利用できるOutlook Web Accessを使う場合はクライアントのアップグレードが不要です。TCO(総所有コスト)の削減は,クライアントをアップグレードしなくても得られます。OutlookのライセンスもExchangeには入っています。クライアントをアップグレードするときも追加的なソフトウエア・コストは必要ありません。Outlookを導入・展開するために,Office Systemには展開用のウィザードがあります。さらにまもなく出荷されるSystems Management Server 2003を使えば,展開コストを削減できます。

――Windows 2000 Server上でExchange Server 2003を稼働させるユーザーも少なくないと見込んでおられますか?

[マイヤーソン] やろうと思えばできます。Exchange Server 2003はWindows 2000も同OSによるドメイン・コントローラもサポートします。一方で,OSをWindows Server 2003にアップグレードするユーザーもいるでしょう。HTTP上でOutlookとExchangeを接続するにはWindows Server 2003にドメイン・コントローラをアップグレードする必要があります。サーバー上で新しいクラスタリング,ボリューム・シャドー・コピーを利用するにはWindows Server 2003が必要になります。