5月に就任した日本ヒューレット・パッカードの新社長・樋口泰行氏に,合併して1年とたたない同社の舵取りと,マイクロソフトの「Windows Server 2003」リリースに合わせた販売戦略を聞いた。樋口氏の口からは,「アジリティ」(俊敏さ)という言葉が何度も出てきてた。元気ある新生日本HPを印象付ける若い経営者が現れた。

(聞き手: 古沢美行=日経BP社執行役員コンピュータ局長)


樋口泰行 日本ヒューレット・パッカード
代表取締役社長 兼 COO

 ――社長就任おめでとうございます。日本ヒューレット・パッカードは昨年11月に合併されて,まだ1年たっていないわけですが,“新生日本HPの新社長”としての抱負を語っていただけますか。

[樋口泰行 社長]  就任してから,多くのお客様を訪問させていただき,お話を伺う機会がありました。さらに,社内の様々な部署からいろいろな社員のフィードバックを受けて,弊社のいろいろな問題を吸い上げて考えてきました。

 その上で分かってきたことは,社内で「やるべきこと」ができていない,「当たり前のこと」ができていない,ということです。これからは,社内を活性化させることが必要と考えています。もっとスピードを上げて,オープンな経営に注力していかなければならない。

 変化の速い世の中ですから,トップがただ座っているのではなく,社員とのつながりをもって,アグレッシブにやっていくのが重要と考えています。向こう6カ月間はやるべきことを洗い出して,アジリティ(Agility,俊敏さ)を持って解決していきます。



古沢美行
日経BP社執行役員
コンピュータ局長

――御社はコンピュータやプリンタ,ソフトウエアなど幅広く扱っていらっしゃいます。これからはどのような方向に進もうとしているのでしょう。

[樋口] 弊社は現在,ワールド・ワイドで「アダプティブ・エンタープライズ」という戦略を掲げています。私自身もこの1年,IAサーバーを担当していましたが,エンタープライズ・マーケットに力を入れていきます。

 世の中の変化が激しくなっている状況で,企業におけるコストや品質,リスクの評価といった要因を,いかに俊敏に対応させるかということが,ビジネスの課題になってきています。HPのアダプティブ・エンタープライズは,これに対するインフラ,ソリューションの支援をするものです。

 丸抱え的にお客様を囲い込むよりも,お客様のITコストを下げるために,オープンで柔軟なソリューションを提供していこうと考えています。その方がユーザー・メリットになると思います。柔軟なソリューションをパートナさんとも協業しながら進めていきます。

――最近,日本IBMも,「エンタープライズ・アーキテクチャ」という手法で,顧客企業のROI(Return on Investment)というか,RoIT(Return on IT)を重視したコンサルティング戦略を打ち出していますけれども,単に言葉だけを見ると同じように思えますが…

[樋口] 単にRoITという時間軸で見た分析に比べて,われわれの手法は,「アジリティ・アセスメント・サービス」という,企業の「アジリティ(俊敏性)」を,ビジネスとITの両面から測定する非常に優れたツールがあります。フランスとシンガポールにある経営大学院INSEADと共同で開発したものです。アジリティという切り口で,最も優先すべきITプロセスをいかに把握するか,そこにフォーカスを当てているところが特色です。既にセミナーを始めているのですが,手ごたえが大きくて,お客さまの関心の強さにびっくりしています。

 アジリティ・アセスメント・サービスは,アダプティブ・エンタープライズ戦略に基づいて5月27日に発表した3つのコンサルティング・サービスのうちの1つです。他にも「アダプティブ・アプリケーション・アーキテクチャ」と「アダプティブ・ネットワーク・アーキテクチャ」という,コンサルティング・サービスにより,企業の柔軟なソリューションを提案していきます。

――「アジリティ」「オープン」。結果としてはROIに行き着くのでしょうか。

[樋口] そうですね。

――景気が回復したとしても,ITの需要は盛り返さないのではないかという見方も一部にあります。技術の進歩で,それほど投資をしなくても,効果が上がってしまい,IT需要としては小さくなるという見方です。顧客企業にとってはうれしいのでしょうが,ITベンダーの競争は,熾烈(しれつ)になっていくのではないでしょうか。

[樋口] ロング・タームで見ると,ハードウエアのコストは下がっています。オープンで柔軟性があるシステムということは,それだけ投資保全がなされているので,売る側から見ると販売機会が減るということはその通りだと思います。

 しかし,自分の首を締めるために,独自技術で囲い込んで利益を得るというのは,お客様にとっても,われわれにとっても良くないことです。ITベンダーとしては,常に新しいものを提供し続ければ,まだまだ需要は伸びると考えています。

 ブロードバンドが普及してきて,流れるデータも大きく,重たくなってきています。それに応じて,ストレージの需要は伸びていますし,それを支えるサーバーも伸びると思います。まだまだ,情報技術のニーズは当分広がると思っています。