■ストレージ大手の米EMCは2003年後半に,米国のソフトウエア会社「Legato Systems」「Documentum」「VMware」の3社を買収した。同社で技術と市場の方向性を評価分析するケン・シュタインハート(Ken Steinhardt)氏が来日したのを機に,同社がこれら買収の先に,なにを目指しているかを聞いた。

(聞き手:木下篤芳=日経Windowsプロ副編集長)



米EMC テクノロジ・アナリシス担当ディレクタ
ケン・シュタインハート氏

――3つのソフトウエア会社の買収で,なにを目指しているのでしょう。それぞれ独立した意図というより,連携しあった1つの目的があるように思えます。

[ケン・シュタインハート氏] わが社は企業戦略として,「情報ライフサイクル管理(ILM:Information Life Management)」を推進しています。わが社が持っているILMの強みはなにか,そして,なにが足りないかを見直したうえで,この3社が,われわれの欠けているところや,伸びる可能性があるところを補うと考えて,買収しました。

 どこの調査会社も,EMCがストレージのあらゆる分野でリーダー的な位置付けにあると報告しています。ところが,唯一リーダーになっていないのが,ストレージのソフトウエアの分野であるという結論が出ています。Legato Systemsは,バックアップとアーカイブの分野を補強してくれると見ています。

 Documentumは,コンテンツ管理ソフトをやってきた会社です。IT業界は最近になって,扱うデータの性質が変わってきました。これまでは,取引データのような構造型のデータを保存しておけばよかった。ところが,最近は,非構造型のデータが増えてきました。デジタルの動画,音声,写真などのデータや,電子メールが当てはまります。従来のストレージの発想では,非構造型のデータを保存する方法がなかった。そこでDocumentumが力を発揮するわけです。Documentumは,データを取り込む段階からコンテンツ管理して,ILMを行ってきました。

 VMwareは,サーバーの仮想化ではリーダー的な存在でした。一方,EMCは90年代にまだストレージの仮想化という言葉がない時代から取り組んできました。今度の買収で,サーバーの仮想化とストレージの仮想化の融合の先に,非常に大きな究極的な仮想化の構想を進めています。

 各社の技術をどのように組み合わせるかは,既に合併前に話し合いをしました。そして納得したうえで合併したのです。いずれも,EMCのILM戦略の中で重要な役割があります。IT業界の次の潮流はILMであり,その中でリーダーになると考えています。

――コンテンツ管理がILMの中でどのような役割をするのでしょうか。

[シュタインハート] 最近面白い事例を見ました。ハーバード・メディカル・スクールの病院の話です。ここでは,カルテの情報やX線写真など,すべてがデジタル化されており,1日に70Tバイトものデータにアクセスするそうです。取り込まれたデジタル・データは1カ月間,性能の高いストレージに保存されます。そして,ある期間が過ぎると順次アクセス頻度の低いストレージ環境へ移って行きます。結果として少ないコストで30年分の医療データを保存できるようになったのです。

 この病院では,コンテンツ管理まではできていませんでしたが,データの中身は相互参照するようになっていて,ある患者に薬剤を処方しようとすると,過去の病歴や投薬を参照しながら,警告を発するといったことが可能になっていました。

 ILMとは,データを取り込んでからアクセス頻度の低いストレージまで,段階的にデータを移して行くということです。場合によっては,あるポリシーを設定して,アクセス頻度の高い層に戻すこともあり得ます。情報の価値を時間とともに把握して,ポリシーを設定するためには,コンテンツ管理が必須になってきます。

――Microsoftは次世代Windows「Longhorn」の中で,WinFSという新しいファイル・システムのインターフェースを用意していて,最終的にはコンテンツ管理を目指しています。Oracleも同様のことを目指していると聞きます。御社が彼らと異なるところはどこでしょうか。

[シュタインハート] MicrosoftやOracleとは,大変友好的な関係を築いています。彼らのコンテンツ管理は,われわれとそれほど変わらないでしょう。いまや業界全体がその方向に進んでいると思います。

 Microsoftは,個人向けに,デスクトップ・パソコンのローカル・ディスクの全データをコンテンツ管理することを考えているようですね。

 Documentumは既に企業向けコンテンツ管理でリーダー的な存在として,名をはせた企業ですし,この分野の知識,経験そしてIP(知的所有権)を共有することになります。われわれはフル装備でMicrosoftやOracleと協調していく土台ができたと考えています。

 これからはコンシューマ市場にもILMが台頭してくるのではないかと思っています。私は趣味でパソコンを使ってビデオ編集をするのですが,何十Gバイトものデータをいつまでもローカル・ディスクに残せません。そこである時点で別のメディアに移す必要があります。コンシューマとエンタープライズの両方で,コンテンツ管理が爆発的に普及すると思われます。

――コンテンツ管理は,数年前に注目されたEIP(企業情報ポータル)に近いものを感じます。EIPでは,企業が蓄えた情報をいかに検索するかという「知識管理(ナレッジ・マネージメント)」が提唱されていました。

[シュタインハート] ナレッジ・マネージメントやEIPとは確かに共通項があって,似ているように見えます。われわれにとってEIPは,ILMの初期段階に過ぎないということです。

 ベンダーは製品を提供するだけで,それだけでは限界がある。企業向けにコンテンツ管理をするには,コンサルティング・サービスから入って,企業のどのコンテンツを管理するか把握することから始めなければなりません。情報をどのように縦横に相関関係を持たせていくか,データをいかに分類するかです。そこが単なるナレッジ・マネージメントと違うところです。それでこそ,コンテンツ管理がILMに結びつけられます。コンテンツ管理やILMは,サービス産業です。

――もう1つのキーワードである「仮想化(バーチャリゼーション)」についてもう少しお聞かせください。サーバーの仮想化とストレージの仮想化の融合で,目指しているものはどんなものでしょうか?

[シュタインハート] いろいろなアイデアがあると思いますが,「バーチャル・リカバリ」が可能になります。仮想的なサーバーが仮想的なストレージにデータを保存している状況であれば,バックアップとリカバリを,プラットフォームに依存しない形で透過的に実現できます。

 そのためにはネットワークも仮想化されている必要があります。ネットワークはこれまでインテリジェンスを持たないといわれていましたが,サーバーとストレージに加えて,ネットワークまでを仮想化できれば,システム全体を仮想化できます。

 既にEMCの「PowerPath」を使えば,NICを仮想化できます。しかし,サーバーもストレージもスイッチもすべてに,仮想化のプログラムがあって,それらが連携し合いながら,システムの究極的な仮想化を実現するのです。それには様々なベンダーと協力して,オープン・スタンダードなものとして,プラットフォームに依存しない形で,システム全体を仮想化するものを目指しています。この1~2年先で,大きく変わります。

 そこにコンテンツ管理ということでデータ同士が緊密な関係を築くということになれば,これまで以上に,ストレージの重要性が増すことになるでしょう。しかも,データ量は10倍,100倍,1000倍になるけれども,低価格で実現できるわけです。