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Microsoft MVP for Directory Services
グローバルナレッジネット
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ソリューション本部
横山 哲也

著者紹介
 1962年生まれ。1987年同志社大学大学院工学研究科卒業,同年日本ディジタルイクイップメント社に入社。1996年,教育部売却に伴いグローバルナレッジネットワークに移籍,現在に至る。保持するMCPタイトルは30を超えており,Windows 2000 トラックのMCSEを取得した世界で最初の2000人の1人でもある。著書に「Windows Server 2003完全技術解説」などがある。最近の趣味はフィルム式一眼レフカメラで,主な被写体は自分の飼い猫。
 

 Windows Server 2003 Service Pack 1(SP1)の完成が間近に迫っている(編集部注:本記事が日経Windowsプロに掲載されたのは2005年4月である)。Windows Server 2003 SP1は,Windows XP SP2と同様,セキュリティ機能が大幅に強化されている。そしてさらにSP1からx64 Editionが追加される。

 x64は,インテルx86アーキテクチャをベースに,64ビット・メモリー・アクセス機能を加えた命令セットであり,元々米Advanced Micro Devices(AMD)が「AMD64」としてAthlon 64やOpteronに搭載したアーキテクチャである。

 AMD64の最も大きな特徴は,32ビットx86命令が一切の変更なしに高速に動作する点である。その後,インテルも一部のプロセッサにAMD64互換のアーキテクチャ「EM64T(Extended Memory 64 Technology)」を採用した。AMD64もEM64Tも,前述の通り「高速なx86」として利用できるため,x86版のWindowsがそのまま動作する。しかし,64ビット拡張命令を使うことでより高い性能を発揮する。そこで,マイクロソフトはWindows Server 2003 SP1からAMD64とEM64Tを同一バイナリとしてサポートすることになった。これが「x64 Edition」である。

 周知の通り,インテルは64ビット・アーキテクチャのCPUとしてItaniumプロセッサ・ファミリ(IPF)を前面に打ち出していた。Itaniumは,従来のx86プロセッサとの互換性を捨て,完全な64ビット命令体系をサポートする高性能なアーキテクチャを持つ。本来であれば,サーバーから高性能ワークステーションまでをカバーするはずであった。しかし,Itaniumの性能は確かに高いものの,期待を上回るほどではない上,エミュレーションによるx86命令の実行も低速なので,期待ほどは売れていないようだ。

 AMD64は,技術的にはそれほど面白くない拡張であるが,市場には支持された。結果として,インテルは「AMD互換プロセッサ」を投入することになった。

互換性が無くても成功したVAX
 ところが歴史をひもとくと,Itaniumと同じ方針,つまり「互換性は基本的に捨て,低速なエミュレーションのみで対応」というアーキテクチャであっても大成功したコンピュータもある。旧Digital Equipment (DEC)が1977年に開発した,世界初の完全32ビット・コンピュータVAX-11シリーズである。

 VAX-11は,当時のベスト・セラー16ビット・コンピュータPDP-11の後継であるが,命令体系が似ているだけで互換性はなかった。ただし,プロセス単位でエミュレーション・モードに移行でき,PDP-11の命令を(低速ではあるが)そのまま実行できたのである。

 技術の移行時には,市場はしばしば技術者が予測しなかった動きをする。しかし,あとから考えてみると,実に合理的な選択だったことが分かる。

 VAXの時代,16ビット・コンピュータのメモリー空間サイズには大きな不満が出ていた。また,主要ユーザーは自分でプログラムを作成していたため,再コンパイルしてアプリケーションを再構築することは大きな問題ではなかった。つまり,移行の動機があり,移行後の不安が少なかったのである。

 Itaniumの場合は,データベースを中心とする一部ヘビー・ユーザーはx86に対する不満があったものの,多くのユーザーはそれほど不満を感じていない。しかも,アプリケーションはベンダーが提供するものであり,ユーザーはバイナリ互換を強く求めている。ところがItaniumのx86命令実行速度はそれほど高速ではないため,既存のアプリケーションを使い続けるならかえって速度が低下してしまう。つまり,移行の動機がなく,移行後の不安も大きいと思われてしまったのだ。