(鳥山 隆一=TRO)

著者紹介
 IT関連ライター。プログラミングから,IP電話,企業におけるシステム導入まで,IT関連で幅広く活躍。2003年に企業のシステム導入事例の作成を業務の中心とする有限会社TROを設立。IT関連企業の導入事例を多く手がけている。
 今秋にもマイクロソフトのアプリケーション開発環境の最新バージョン「Visual Studio 2005」が登場する。.NET Frameworkの利用を前提とするようになった「Visual Studio .NET 2002」から数えて3世代目の製品となる。言語仕様が一部変わるなど,大きな変更が加えられた。

 この連載では,Visual Studio 2005について,新機能や注目点などを,言語仕様と開発環境の2つの面から解説する。もちろん製品版はまだ出ていないので,その時点で入手できる最新ベータ版を使ってサンプルを作成したり,これを利用しているユーザーの使い勝手に対する声などを紹介しながら,Visual Studio 2005を使ったシステム構築のポイントを解説する。

 連載の第1回となる今回は,今後解説する内容を示す意味も込めて,Visual Studio 2005の強化点をおさらいする。強化点は非常に多いが,ここでは主に「Visual C#」と「Visual Basic」について説明する。プログラムの実行環境である.NET Frameworkの強化点もあり,それは複数の言語に関わる。その場合は代表的な言語で説明する。

柔軟性を高めてコーディングがしやすくなる
 言語仕様については,Visual Studio自体よりも,Visual Studioで作成するアプリケーションの実行環境である.NET Frameworkに深くかかわってくる。一見,C#だけ,またはVisual Studioだけの強化点のようだが,実は.NET Frameworkが強化されていて,将来,同様の強化がほかの言語でもなされる可能性がある。

 今回の言語仕様の強化を簡潔に表現すると,“柔軟性を高めた”ことと,“コーディングしやすい”ことだろう。柔軟性という意味では,ジェネリクス(Generics)やヌラブル型(Nullable type)への対応などが挙げられる。コーディングしやすいということでは,匿名メソッド,Visual BasicのMyクラス,パーシャル・タイプがある。

 詳細は次回以降に解説するが,それぞれ簡単に説明しておこう。「ジェネリクス」は,型を宣言せずにクラスを定義できる仕様のこと。定義したクラスは,利用するときに型を宣言する。例えば,“内容を画面に表示する”というメソッドを持ったクラスを,その内容が文字列でも整数でも同様に使えるように宣言できる。使うときに,その内容を文字列にするか,整数にするのか決めればよい。これによって,扱うオブジェクトの型ごとにそれぞれ個別にクラスを作成する必要はなくなり,汎用的でかつデータ型に厳密なクラスを作れるようになる。

 「ヌラブル」というのは,文字通り,Nullになり得る値型である。int型といった値型は,string型といった参照型と異なり,必ず値を取る。ヌラブル型は値が入っていないという状態,すなわちnullを取れる値型である。nullは0(ゼロ)とは違うので注意が必要である。

 「匿名メソッド」は,デリゲートの代わりにコード・ブロックを直接書けるようにした機能のこと。例えば,特定のイベントが発生したときに実行する処理を作成するのに,イベント・ハンドラ本体と,そのイベント・ハンドラを呼び出す,といった2つのコードを書かずに,イベント・ハンドラを呼び出す部分に,処理の内容を書き込めるようにした,ということ。

 「Myクラス」は,特に入門者に向けて強化されたVisual Basicの機能である。アプリケーションがまさに,“自分”の状態を調べたり,設定したりするのに利用する。標準で利用できる名前空間で,この名前空間に,Applicationや,Computer,User,WebServicesなど,目的別にクラスがある。例えばApplicationクラスでは,アプリケーションの実行フォルダ,文字書式や時間といった国別の設定など,アプリケーションに関する情報を取得・設定できる。
(次のページへ続く)