管理者の使命はユーザーへの奉仕
 システム管理者の使命は「利用者の得になることを提供する」ということである。管理者の手間を減らすことが目的ではなく,利用者の手間を減らすためにグループ・ポリシーを使ってほしいのである。「不当なWebサイトと正当なWebサイトの区別を付けるのは難しいでしょうからシステムで制限します」ということだ。

 成毛真氏がマイクロソフトの社長だったころ,何かの講演でおっしゃっていた。「マイクロソフトはPCの自由度を奪おうとしているのですか,という質問をいただきます。とんでもない。マイクロソフトはPCの自由な世界を奪おうとは全く考えていません。ただ,自由に設定できる環境がふさわしくないシーンにも対応したいと言っているのです」。まさにその通りで,PCが「自由に使えるコンピュータ」であることは忘れてはならない。

 少し前,情報処理学会の学会誌を読んでいて吹き出したことがある。「IT部門は例外なく一般社員に嫌われる」という記事である。IT部門の人がどれだけ頑張っているかはよく知っているが,その頑張りがあまり評価されていないのも事実であろう。しかし,失礼を承知で言えば,IT部門の方の多くはエンドユーザーの視点に立たず,会社全体の利益しか考えていないのではないだろうか。

 「全社最適」という基本的な発想はもちろん正しい。しかしIT部門の人は「それがなぜ全社最適につながるのか」ということを適切に説明しているだろうか。また,利用者にとってのメリットを正しく示しているだろうか。自分にメリットのないことを強制されても,エンドユーザーは反発するだけである。

 マイクロソフトに言いたいこともある。「こんな機能があればこんなに楽しいですよ」と呼びかけるのはいい。しかし「企業システムに導入するとこんなリスクがありますよ」ということが全く指摘されていない。私はWindows 2000のころからマイクロソフトのベータ・テスターとして活動している。ベータ・テスター向けのドキュメントには,新機能や変更点の技術的な説明はあるものの,どういう状況で使うのか,あるいはその機能にはどういうリスクがあるのか,ということがほとんど記されていない。シナリオなしに機能だけ提示されても戸惑うだけである。先月の高橋基信氏が語る通り,システム管理者というジャンルが軽視されているのではないだろうか(該当記事)。

 マイクロソフトは「Active Directoryがなかなか普及しない」と悩む。しかし「Active Directoryを使うことでこんなに便利になります」というシナリオがあまりない。いや,あるのだが,抽象的な表現にとどまったり,他のアプリケーションを必要としたりする。

 実際には,ユーザーのプロパティに電話番号や部門を入力するだけで社員の内線電話帳として十分に機能する。姓名などを使った検索もできる。標準機能だけで,社員検索システムが完成するのにアピールが足りないのだ。PCは本来自由なものであり,シス テム管理者は利用者の便宜を第一に考えるべきである。そのために,マイクロソフトは,システム管理者に役立つシナリオを提示すべきである。

 企業システムにおいて「PCは自由である」という意見には異論もあると思う。しかし,自由なPCは仕事を楽しくする。もっとも,自由には責任が伴う。システム管理者は,利用者の自由度に対する責任を転嫁されているわけである。苦労の多い仕事であるが,頑張ってほしいと思う。そして,新入社員に「システム管理者になりたい」と思われるような仕事を実現してほしい。

(日経Windowsプロ2004年11月号より)



Microsoft MVPとは…
 Microsoft MVP(Most Valuable Professional)とは,MS製品のユーザー会やメーリングリストなどでユーザーのサポートをしている人の中でも,特に貢献度が高いとMSが認定したプロフェッショナル。Windows ServerやSQL Serverなど部門ごとに認定されている。