(Paul Thurrott)

 米MicrosoftのBill Gates会長兼チーフ・アーキテクトは2005年2月に開催された「RSA Conference 2005」の基調講演で従来の方針を破棄し,「Longhorn」(開発コード名)のリリース前にInternet Explorer(IE)のメジャー・アップデートを実施する予定だと公表した(既報)。この発表までIE担当者は,Longhornのリリース以前にはWindows XP Service Pack 2(SP2)のIEで追加されたセキュリティ強化以外には何も変更しないという姿勢を崩していなかった。

IE 7登場が早まる兆しはあった
 しかし,Gates会長の発言以前から,MicrosoftがIEに対するスタンスを見直している傾向は見られた。最初のきっかけは,2004年11月にリリースされたオープン・ソースのWebブラウザ「Mozilla Firefox」がハイエンド・ユーザーから絶大な支持を得て,100日で2500万件ものダウンロード数を獲得し,Webブラウザ市場の約5%を獲得したことだ。

 次に同社は,Longhornのリリース前に少なくともIEのマイナー・アップデートの提供を検討し始めていた。同社のGary Schare氏(当時の肩書きはDirector of Windows Product Management)は私と会談した際に,XP SP2のIE 6に[コンポーネント・アドオン]機能を利用して新機能を追加できるかを検討していることを明らかにしていた。既にMSNは,「MSN Toolbar Suite」でこの手法を使い効果を上げている。

 Gates会長の基調講演は,このような状況下で行われた。「Internet Explorer 7」と呼ばれることになるIEのメジャー・アップデートについて,同会長が述べた内容は,以下の通りである。「われわれは,Internet Explorerの新しいバージョンの開発に取り組むことを決定しました。このIE 7には,新しいレベルのセキュリティ機能が追加されます。2005年初夏にはベータ版を公開します」。さらに,IE 7はXP SP2でのみ利用可能であり,Windows 2000/9x向けには提供しないことを明らかにした。「もちろんわれわれは,これらの機能を2006年にリリースを予定しているWindowsの次期版,つまりLonghornにも盛り込みます」。

 これはどういうことだろうか。私がこの記事を書いている今でも,IE 7に対して多くの疑問がある。その主な理由は,Gates会長のコメントが非常にあいまいなものであったからである。基調講演の後,Microsoftの担当者はどんな質問にも対応せずに,回答を先送りした。

既にIE 7で分かっていること
 事実に基づいた上で,現時点でIE 7について分かっているのは以下のようなことだ。

IE 7は元々Longhorn向けに準備されていた。本来,IE 7の新機能は,Longhornの一部としてお目見えするはずだった。

IE 7の焦点はセキュリティにおかれている。新機能には,あまり重点を置いていない。MicrosoftがXP SP2で出荷したIEと同じように,IE 7は主にセキュリティ重視の機能で構成される。この機能のうち1つは,フィッシング対策機能となる。「(IE 7での)進歩の中には,ユーザーが実際には他の場所からのURLを使用してしまうフィッシングに特化したものや,マルウエアに関連するものが盛り込まれます。ですから,(これはIE 7にとって)また1つの重要な進歩となるのです」とGates会長は述べた。さらにIE 7には,盗聴者がユーザーのPCにデータが届けられる前にデータの改ざんしたり,ユーザーが悪質なサーバーにリダイレクトされるのを防ぐのに役立つIPトラフィックの暗号化能力が盛り込まれる。Gates会長によると「この機能でトラフィックを確実に暗号化するため,盗聴や改ざんはできなくなる。さらに認証を使うことで,この機能はユーザーが接続したいマシンと接続できることを確実にする」とのことだ。またIEの[セキュリティゾーン]の見直しもしている。

IE 7にはタブ付きブラウジング機能が盛り込まれる。これは私が事実として知っていることなのだが,MicrosoftはLonghornと同時に出荷されるIE 7にタブ・ブラウズ機能や他の新機能を実装しようとしている(既報)。XP SP2ユーザー向けのスタンドアロン版IE 7にも,このタブ・ブラウズ機能や他の新機能は含まれると,私は思う。

IE 7には「Outlook Express(OE)」の新版は含まれない。「IE 7にOE 7は入るのか」と私に聞いてくる人たちもいたが,私はそうならないと考えている(既報)。私の見たところでは,ここ数年OEの開発は行き詰まっている。さらに,IE 7の最重要の関心はセキュリティであって,バンドルするメール・クライアントを向上させることではないのだ。

IE 7は無料である。これまでのIEと同じく,IE 7も無料である。

IE 7に関する私の予想
 これらの事実に加えて,IE 7に関する私の予想を披露したい。これから書くことは確固たる確信はないが,これまでのMicrosoftスタッフたちとの会話から予測したものである。

おそらくIE 7は,XP SP2ユーザーにのみリリースされる。Microsoftは既に,IE 7がXP SP2を利用する上でのもう1つの利点である,という元々の主張を少し引っ込めつつある。これは,もし多くのユーザーから文句が出れば,IE 7をWindows 2000にも対応させる可能性があるということだ。とはいっても,Windows 2000向けのIE 7では,本質的にセキュリティが劣ってしまうと考えられる。そのため,IE 7はXP SP2向け専用となる可能性が高いと見ている。

おそらくIE 7は,2005年中にリリースされる。IE 7がベータ版になるのは5月か6月で,2005年の終わりには正式版のリリースが期待できる。IEチームのブログによれば,少なくとも2回のベータ・リリースが出されるという。

 Longhorn版IEとスタンドアロン版IEは,かなり異なるものになる。XP SP2のユーザーが年内に,Longhorn版のIEを入手できると勘違いしてはいけない。Longhorn版IEは,高度なグラフィック能力やユニークな新機能を持ち,そして同OSが内蔵する高度な検索機能の恩恵を受ける(WinFSの切り捨てによる影響はない)。XP SP2とIE 7の組み合わせに比べ,OSの攻撃面に対するロー・レベルでの変更のおかげで,Longhorn版IEはより安全なものとなる。

MSが再びユーザーの声に耳を傾けはじめた
 当然ながら,今はIE 7について伝えられることは多くない。だが,Microsoftにとっていきなり重要事項となったこのリリースについて,できるだけ早いうちに事実と予想のまとめを提供しようと思った次第だ。同社はIE 7についてのより詳しい情報を,徐々に提供しはじめるだろう。もちろん,情報が増えるにつれて続報か別の記事を作成し,その後,製品レビューを書く予定だ。

 しかし,ここでもう1つの事項を取り上げたい。私が思うに,Microsoftは多くのケースでユーザーとの接点をなくしてしまった巨大企業であり,友好的な顔を世間に示すことに苦労している。今回のようにユーザーの懸念に取り組み,計画を変更してまでスタンドアロン版IE 7をリリースすることで,同社はフィードバックに耳を傾けることができ,またしっかりと対応できることを証明した。

 つまり今,Microsoftは正しいことをしているのだ。確かに,XP SP2という必要条件ではないかという意見も出ると思うが,現実にXP SP2は他のどのWindowsバージョンと比較しても,かなり安全性が高い。Microsoftはセキュリティに関して真剣であることを確実に示すことで,Windowsコミュニティに言葉を超えたメッセージを送っているのだ。私はこの変化を歓迎する。

 サイバー・アタックはこれからもどんどん高度化してゆき,Microsoftが築き上げる防壁の高さにもそのうち追い付くだろう。さらに(Longhornでお目にかかれることを期待している)安全な基盤によってのみ,Microsoftはセキュリティ問題に関する悪評を克服できるだろう。しかしそれまでの間,IE 7は間違いなくXP SP2と同じくらい重要な応急処置といえる。