|
マイクロソフト プロダクト ディベロップメント リミテッド
ディベロッパー製品開発統括部
インターナショナル プログラム マネージメント グループ
プログラム マネージャ
頃末 和義
仕事の内容や製品は変わっても,社会人になったときから一貫して日本化にかかわってきました。というのも英語があまり好きでなく,関数名やキーワードが全部英語だったのが許せなかったんですね。もっとも,日本語表記の開発言語は入力が大変で結局使いませんでした。でも,それは大人しかプログラミングをしなかった時代のこと。これからの時代,『ボタン1=新しいボタン(「ボタン」);』なら小学生でもプログラミングができるかもしれない,と思いをはせるこのごろです。
ここ10年ほどで,Windowsは大規模な業務システムにも積極的に利用されるようになりました。加えてエンドユーザーも子供からお年寄りまで急速に拡大しており,OSやアプリケーションは今まで以上に日本の文化に細かく対応することが求められています。その一方でインターネットの普及やソフトウエアの海外生産が積極的に行われるようになり,国際対応の要求も高まっています。
そこで,今回は.NET FrameworkやVisual Studioがこれらの課題にどのように対応しているかについて説明したいと思います。
日本化とグローバル化の両立を目指して このように日本の言語や文化に対応することを,私たちは,「日本化(Japanization)」と呼んでいます。冒頭に述べたように日本化の要求は確実に高まっています。特に最近ではVisual Studioやライブラリの高機能化により,Visual Studio自体の提供している機能が,これを使って開発されるアプリケーションの機能にも影響を及ぼすことが多くなっています。このため,開発者向け製品といえども,機能によってはコンシューマの視点に立って日本化を検討する必要があります。 一方で,近年は「グローバル化(Globalization)」の要求も高いため,日本のために特別なVisual Studioを作るわけにはいきません。日本語版と英語版で動作が違うのでは,海外にソフトウエアを配布する場合や海外の会社と共同開発するといった国際化のシナリオに支障を来すからです。 そのため,日本に必要な機能について考える際にも,日本化とグローバル化という2つの視点で検討する必要があります。問題は,日本化の要求とグローバル化の要求が必ずしも一致しないということです。その場合は,簡単にどちらか一方をあきらめるのではなく,可能な限り両者の接点を探し出してグローバル化の一環として日本化ができるように努力しています。 余談になりますが,マイクロソフト社内ではよく日本化とグローバル化を合わせて「国際化」と表現しています(または「インターナショナル」)。日本固有な機能についてWebサイトやドキュメントで調べる場合も,「国際化」や「インターナショナル」などのキーワードで検索すると,目的のものが見つかるかもしれません。
日本からの要求を通すための戦い 一度対立すると,どのチームも何万ものユーザーを代表しているわけですから,簡単には引けません。そうなると,話し合いというよりは戦いの場となります。このときに重要になってくるのがユーザーの声です。特にマイクロソフトでは,ここ数年,ユーザーからのフィードバックに対応することに最大限の努力を払っています。このため最終的には,フィードバックの数の戦いになることも少なくありません。ちょっと浅ましい表現かもしれませんが,この戦いに勝利するためユーザーからのフィードバックを必死に集めることもあります。 日本化とグローバル化の間でよく問題になることの1つにMUI Windows上での動作があります。MUI Windowsとは「Multi User Interface Windows」の略で,英語版OS上にオプションを加えることで,多国語対応にできるバージョンのことです。以前,国際化チームが「MUI Windows上で問題となるから,ここのUIを英語表記に戻す」と言ってきました。彼らにとってMUI Windows上での動作というのは,非常に大事なゴールの1つですから,この判断を責めることはできません。しかし,日本の立場からすると,UIの言語に切り替えて使うユーザーは絶対数が少ないので,そのために一部のUIを英語に戻すなどは考えられません。
このときは,このUIの日本語化に関してのフィードバックが多かったこともあり,大事な部分は機能を追加して,日本語化しつつMUI Windowsにも対応し,それ以外の部分はUIの切り替えには多少の制限をつけて日本語化するということになりました。それでも,結論に達するまでには,何日間にもわたりメールをやり取りするはめになりました。こういう過程を経ることで,バランスの保たれた製品となるのですから仕方ありませんが,私たちの戦いの日々に終わりがくることはないでしょう。 |